なので、ぼくたち客は高田馬場を出てから特別観覧席に座るまで、1円も出していないんです。
もちろん、車券はノミ屋を通じて買う。
ノミ屋としても、少なくとも缶コーヒーの元手は取らないといけないのだ。
「旦那、次のレースのいい情報が入ったんだけ聞くかい?」
その当時はコーチ屋もけっこういました。
「情報料はタダ。情報が本当だと分かったら、少しご祝儀をはずんでくれればいい」
タダの情報なら、一応聞いてみようかと思うのが人情。
もちろん、たいていは外れるんですが、たまに的中すると、たちまちコーチ屋が目の前に現れる。
「旦那、やっぱり本物だったでしょ。ひとつご祝儀もよろしく」
この商売のコツは、できるだけたくさんの人に、それぞれ違う予想を教えること。
すると誰かが的中するので、客の顔さえ覚えていれば、その都度ご祝儀にあずかれるという仕組みです。
ハウスのノミ屋はある程度の資本金が必要ですが、こちらは何も要らないのもいい。
ただし、ノミ屋の客に声をかけるとにつまみ出されるので、ある程度は顔を通しておく必要がありそうです。
競輪場には、もうひとつ元手のかからない、地見屋(じみや)という商売がありました。
間違えて捨てられた当たり車券を拾うんです。
レースが終わったあと、ぼくらは再び麻雀に突入したのでありました。
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2011年7月15日号)
●西原理恵子公式HP「鳥頭の城」⇒ http://www.toriatama.net/
●山崎一夫のブログ・twitter・Facebook・HPは「麻雀たぬ」共通です。⇒ http://mj-tanu.com/