袋に耳を当てる。音はしない。
袋の上から指を押し当てる。固い。液体の袋とかヤバいやつではなさそうだ。
ハサミで封筒の口を切る。一応チェックしたが、カミソリとか仕込んでいるかもしれない。でもそういうことはなかった。
袋を開け、中身を出す。
袋が出てきた。二重包装……?
中の袋の表面には、赤字でこう書かれていた。
「取り扱い注意」「極秘資料」
あと紙が1枚入ってある。
「中の書類は誰にも読まれるな。読む前に、部屋に隠しカメラがあるかチェックしろ。盗聴器にも気をつけろ」
……どういうことだ?
スマホが鳴り、ビクッとする。
画面には「黒服」と表示。
俺は「黒服」なんて人間を登録したことは、ない。
電話をとる。
「もしもし」
「中を見たか」
「誰だ?」
「その中身を預かるものだ」
「……預かる?」
「お前は、その中身のすばらしさを、令和元年最初の日に、ネットで発表しろ。この『任務』は、誰にも口外するな」
「意味が分からない」
「分からなくてもいい。その中身の『主人』がお前を選んだんだ。ありがたく思え」
「…………」
だんだん腹が立ってきた。
「ふざけるな。なんで俺が」
「理由はある。お前がクズだからさ」
「は? お前、どこにいる!」
「窓の外を見ろ」
「……窓?」
カーテンを開ける、
黒服の男が、パッと見ただけで5人いた。
「なっ……」
「そうそう、玄関には外から鍵を掛けさせてもらっている。おとなしくいうことを聞くのが利口だ。それに……」
「……なんだ」
「その中身は私たちでさえ見ていない。うらやましいやつだ」
「ふざけるな! 人を監禁しておいて!」
「以上だ。精を出して文章を書け」
電話が切れた。
玄関に行き、ドアノブをひねる。施錠を外したはずだが、ドアはピクリとも動かない。
本当に閉じ込められてしまった。
この部屋から出る鍵はひとつ。
封筒の中にある「もの」だ。
椅子に座り、袋を開ける。
紙だ。中身を取り出す。
これは……漫画の原稿だ。
反射的に中にしまう。
隠しカメラに映るとまずい。
ないと思うが、スマホに「黒服」と登録されていたこともある。チェックする。
狭い部屋だ。隠しカメラなんて、置く場所などないはずだが。
あたりを見回す。
本棚、ラック、タンス、段ボール……。
ん?
本の置き方に違和感がある。
ここは橋本奈々未のコーナーだ。写真集や「橋本奈々未の恋する文学」「橋本奈々未の推しどこ?」などを置いてある。
写真集をどけると、カメラがあった。
マジかよ!
俺は思わず声に出して叫んだ。
他もチェックする。くまなくチェックする。
するとラックに1台。段ボールは穴が開いてあり、そこからのぞくように1台あった。
計3台の隠しカメラ。なにが起きてるんだ。