椅子に座る。目の前にはパソコンがある。
……パソコンのカメラ!
facebookの創始者・ザッカーバーグのパソコンは、カメラ部分をテープで隠しているのを思い出した。
俺は慌ててビニールテープでカメラを覆う。
スマホにもカメラがある。インカメラ、アウトカメラ、どちらも隠した。
どれだけ重要機密なんだよ……。
袋から紙束を出す。
「福本伸行最新作」
束を紙袋に戻す。
どういうことだ?
福本伸行……。
アカギが終わって1年。
正直、「アカギ」で終わったと思っていた。
いや、それは福本伸行が「アカギ」で終わった、という意味ではない。
もう「近代麻雀」で福本先生の漫画は読めないと思っていた。
しかしそれは誤り! 間違い! クソ先入観!
福本先生は、近代麻雀に戻ってきた!
しかも! 舞台は! 「現代」! 「新宿」!
舞台を「現代」や「日本」にしないのは、物語を進める上で不都合がおきるからだ。「昭和の戦直後」ならどんな無法も起こりえるし、「ラスベガス」ならどんな大がかりなことも「リアリティ」を持たせることができる。
それを福本先生は「今の今」を舞台にしている。
否!
舞台なんてどこでもいい!
福本先生なら、どんな荒唐無稽なことであれ、いや、荒唐無稽だからこそ、そこに「人間のリアル」が浮き上がってくる。
タイトルは…
「闇麻のマミヤ」
これこれこれこれ!
福本漫画のタイトルはこれじゃないといけない!
タイトルに主人公の名前がないといけない!
ページをめくる。
よくわからないが、もう麻雀が始まっている。
芸能プロダクションの社長が、行き詰まっている。
そして一言、発する。
「闇」
……どういうことだ?
ここでマミヤも言葉を返す。
「闇返し」
これを読んでいる人はなにが起こっているのか分からないだろう。
でも、漫画を読めば、すぐわかる。
“考えられないこと”が起きているが、それがどういうことか、すぐ理解できる。
これこそ「福本漫画」の真骨頂だ。
俺はまがいなりにも25年(思えば四半世紀だ)、作家業をやっている。
だからわかる。この凄さが。
面白い物を書こうとして、物事を複雑にしていく。ルールを追加していく。
作家をやりたてのころに陥りがちな“穴”だ。