百恵ちゃん17歳、
アルバイト始めました…
女流プロ雀士
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.7
前回までの「百恵ちゃんノート」
まさか自分が「締め切りに追われる」生活になるとは全く想像できなかったし誰もしなかっただろう。
小学生2年生の頃、
『学校に植えたひまわりを2回以上観察に行き、世話をすること』
という夏休みの宿題があった。生粋のクズである百恵ちゃんはもちろん最後の二日間に立て続けに行くこととなる。しかし初日に行った時には既に台風の影響でひまわりはギッタギタにやられていた。
ぐちゃぐちゃになったひまわりを描きながら百恵ちゃんは
『どうせ同じ絵になるから明日来なくてもいいじゃん』
と思いついた。小学生低学年にしてクズの思考回路は完成していた。一緒についてきてくれた父にその素晴らしいひらめき伝えると予想外に
「明日も行かなきゃだめだよ。車で送り迎えしてあげるから、ね」
と諭された。父は普段は放ったらかしだったが時々急に教育をはじめる癖があった。普段自堕落なファミリー生活を共にしてるのに、と納得が行かなかったがこうなった時の父は折れないと知っていたので飲み込んだ。
翌日父に準備ができたことを伝えると
「めんどくさくない?昨日描いたやつもう1回描きなよ。どうせ一緒だから」
と言われ無事に無駄な努力を回避し手を付けていなかった自由研究も3、4本の木の枝をボンドでくっつけただけの芸術的な作品を完成させることにも成功し宿題を提出することができた。
あの時の父の教育が身を結びコラムの締め切りを守ることができているのかもしれない。
アルバイト生活
百恵ちゃんは高校生の頃、色々なアルバイトを掛け持ちしていた。初めに働いたのは学校の近くのラーメン屋さんだった。その頃の百恵ちゃんは赤髪に多数のピアス、ジャージ姿、そしていつも左右バラバラの靴下で出勤していた。田渕家は左右バラバラの靴下を履くことに何ら疑問を持っていなかったので百恵ちゃんもいつもバラバラだった。ちなみに外履きはセサミストリートのスリッパだった。ランチ時のサラリーマンが百恵ちゃんの風貌にギョッとしていたのを覚えている。
しかしそんな自由にさせてくれていたラーメン屋さんを百恵ちゃんは3ヶ月でやめてしまうことになる。ラーメンを何度もひっくり返すミスを連発し、そもそも
“熱いものを持つことが苦手”
という致命的な体質が発覚してしまったのである。あの時ラーメンをぶっかけてしまったお客さん達には本当に申し訳ないと思っている。反省している。
その後は大型家電量販店とガソリンスタンドを掛け持ちして働いた。赤かった髪の毛は黒く染め直し、ピアスもほとんどふさいだ。百恵ちゃんは更生に成功したのである。
家電量販店で働くのはとても楽しかった。動くお金が多く、今でもお金を数えるのが大好きな百恵ちゃんにとってはとても刺激的で楽しい職場だった。田舎の平日の昼間の電機屋さんはとても暇だったが売られている家電の原価を延々と調べるという時間の潰し方をしていた。お金に関することを調べてる時が一番楽しい、と百恵ちゃんは思った。
ガソリンスタンドの面接では所長に
「なんで高校生なのにガソリンスタンドに働きたいって思ったの?」
と言われ本当の理由は時給がよかったからだったがあまり適切な答えではないな、と思い混乱してしまい
「小さい頃からガソリンや灯油の匂いが好きだったからです…」
と極めて危ない返答をしてしまったが無事に採用され2年程働いた。
しかし、車に一ミリも興味がなかったため車に書いてある車種を読むことが出来ず苦労した。最後までクラウン以外の車種を覚えることはなく
「ビーズの拭きあげおわりましたー!」
「ファンタの移動お願いしまーす!」
と適当に言っていた。
それでも百恵ちゃんのアルバイト生活は順調だった。貧乏苦学生に世間は優しく、パートのおばちゃんたちはいつもご飯をくれたしガソリンスタンドの常連のお客さんたちも差し入れをたくさんくれた。
唯一電話対応だけが苦手だった。
「お電話ありがとうございます!◯◯デンキ滝川支店田渕がお受けします!」
と元気に受け答えするも百恵ちゃんがいるのは掛け持ち先のガソリンスタンドで、お客さんの
「あっ間違えましたガチャ」
の反応で百恵ちゃんの方が間違っていることに気が付き反省するも直後にふたたびかかってきた電話には何食わぬ顔で
「お電話ありがとうございます!◯◯石油朝日町SS田渕がお受けします!」
と元気に応えていた。
百恵ちゃんはその頃からゼンツが得意だった。同じミスを50回は繰り返したんじゃないかと思う。これを二度くらったお客さんが電話先で「田渕さんまたお店間違えてるよ」と教えてくれた。
あまりに忙しい時にお店にかかってきた電話に
「はい、田渕です〜☆」
と応えてしまい、電話をしてきた相手が本社の偉い方で店長がめちゃくちゃに怒られたこともあった。あの時の店長には申し訳ないことをしたと思っている。反省している。
そんなふうにイキイキと働いている百恵ちゃんを見て、幼なじみのマイちゃんも羨ましくなったのかこっそり同じ家電量販店の求人に応募していた。副店長に
「同じ高校みたいだけどこの子知ってる?」
と聞かれたが嫌な予感がしたので百恵ちゃんは「あんまりしらない」と答えた。
百恵ちゃんの嫌な予感は的中した。面接の約束に15分以上遅刻してやってきたマイちゃんはレディガガのような化粧にギラギラのタンクトップ、同じ生地のレッグウォーマー、半端じゃなく裾の広がったブーツカットのジーンズに厚底のサンダルといういでたちだった。
サタデーナイトフィーバーの方ですか?
とツッコミたくなる気持ちをグッと堪えて知らないフリを突き通した。30秒程で面接を終えたマイちゃんが悲しそうに帰って行った。携帯を開くとマイちゃんから
「もうほかのひとにきまっちゃってたらしい。チクショウ」
という連絡が入っていた。
面接をした副店長は
「怖かった。早く帰さないとって思った」
と他の人に話していた。百恵ちゃんも賢明な判断だ、と思った。
マイちゃんはその後、地元のマズくて有名なラーメン屋に拾ってもらい、しばらく働いていた。