働いてる雀荘の悪口を言うのはありか?

雀荘をクビになった早稲田大学生

 全国の雀荘には、大学生が大勢いる。アルバイトで働いている人もいれば、フリーの常連客もいるし、セット客もいる。彼らは、雀荘で過ごしながら何を思っているのか。今回お話を聞いた伊坂圭さん(25)は、もうすぐ早稲田大学を卒業予定。いくつかの雀荘でアルバイトの経験がある伊坂さんに、これまでの経験と今の心境を聞いた。

軽い気持ちで雀荘でアルバイト

伊坂さんが雀荘でアルバイトを始めたのは大学3年生になる前の春休み。それまで、麻雀は仲間内のセットを打つくらいだったが、他の人とも打ってみたくてフリーに行くようになった。そして自宅の近くのフリー雀荘「ミッツ」(仮名)で求人案内を見つけた。

「ソフトピンを打つのがその日初めてだったので、興味本位で行ってみたのですが、雰囲気が気に入りました。店員さんと雑談をしているときに『メンバーの仕事に興味がある』と言うと、そのまま採用になりました。自宅と店が徒歩圏内で、早稲田大学に自宅から通っているというのが気に入られたようです。履歴書も後日持参でいいから明日から働いて、と即決でした」

 昼間は学校に行き、学校が休みの日や夜には「ミッツ」で働き、好きな麻雀を打つ日々。職場の先輩や常連客にもかわいがられた。しかし、その本当の価値を伊坂さんが知るのは、かなり後のことである。「ミッツ」は、ビルのオーナーが「禁煙志向」になったことなどから賃貸契約の更新を諦め、閉店することになった。

 

店への不満をツイートしたことでトラブルに

「ミッツ」を辞めた伊坂さんは、学校帰りに「K」という店に遊びに行った。そこで店長と雑談していて、「雀荘で働いたことがある」という話をすると、「うちも人が足りないので、明日から働いて」と、即採用になった。

こうして、Kでも週に何回か働く日々が続いた。「好きこそものの上手なれ」という言葉通り、麻雀の成績もよく、廃業した「ミッツ」に代わる、良い居場所が見つかったと思っていた矢先、事件が起こった。

「雀荘には、店員が本走(客の人数合わせのため自身も麻雀を打つ)するときの麻雀の規定があるところが多いです。それは知っていたのですが、Kはそれが厳しくて、納得いかないことがありました。僕が働き始めた当初からあったのは

・もろひっかけリーチ禁止

・オーラスの、自分の着順が変わらないのにお客様の着順を変えるアガリ禁止

でしたが、ある日、その規制が増えたんです。

・東1局・2局での仕掛けて2000点以下のアガリの禁止

・55000点コールドなので、自分が50000点を超えたら、アガリ禁止、仕掛けも禁止

腑に落ちないもやもやがあり、なんとなくツイッターに本音を書いたんですが、その時に店内のぼやけた写真を添えました。僕のツイートには、いろんな人から『信じられない』『今どきどんな場末だよ』といった、同情のコメントがありました。Kの経営陣は中高年でツイッターとか見ないだろうし、たいしたことではないと、思っていました」

ところが、反応は意外なところから来た。そのツイートの写真を見た常連客が「この店はKだ。ツイートしたのはあいつだ」と気づいて店に連絡し、伊坂さんはオーナーに呼び出された。

「オーナーによると、『名誉棄損と情報漏洩で訴えることも辞さない』ということでした。店の方針に納得いかなくて、愚痴を書いたことは事実なので認めますが、そんなに大げさなことになるか? とびっくりしました。『うちの店にこんな規制あるんだけど、おかしくない?』っていうのが情報漏洩っていうのも無理があるだろうと思いました。

僕は法学部の学生ですし、訴えられて真面目に戦ったら負けることはないだろうと思いましたが、その場は必死で謝ってオーナーには許してもらいました。その後も普通にシフトに入りましたが、お客さんから嫌われてしまったみたいで、僕が本走に入ると露骨に嫌な顔をしたり、ラス半コールしたりする人が何人もいて、どんどんいづらくなりました。そしてある日、オーナーに『人が足りているからしばらく休んでくれないか』と言われたのです。それ以来、Kからは連絡がありません」

職場の不満のツイートは悪いことか?

 職場の雀荘についての愚痴をツイートしたことで、怒ったのは店の経営陣ではなく、常連客だった。この事実は、「職場の不満ツイート」が、日々当たり前のように行われている現代において、興味深い。

「K」の常連客が伊坂さんの愚痴ツイートを見つけて不愉快になったのはなぜだろう? 例えば自分がよく行っている店の店員が「うちの店はおかしい」とか、「今日こんなバカな客がいた」などとつぶやいているのを見た時、不愉快になるのはなぜだろう? それは、「自分もどこかで悪口を言われて晒されるかもしれない」という恐れからではないか。

 客の立場からしてみれば、メンバーに規制があるとかないとか、それを自分たちが知っているか知っていないかなど、実はどうでもいいのだ。問題は「自分が遊び場として通っている店で、自分の悪口をツイートするかもしれないやつが働いている」ということが嫌なのだ。だから、伊坂さんと麻雀を打つのは当然嫌だし、その場にいて後ろ見されるのもまっぴらごめん。「あんな奴、店に置くなよ」と店に言いたいし、他の常連客には「あいつ、俺たちの悪口を世界中に発信するかも」と告げて味方を増やそうとする。

「伊坂がいるならKでは遊ばない」と言う常連客も、どこか遠くの知らない人の「今日こんな嫌なことがあった」というツイートを見たら、慰めの言葉のひとつもかけるかもしれない。自分自身はその「嫌なこと」の対象にならない、という安心感が重要なのだ。他人事であればいくらでもきれいごとを言えるし、いくらでもひどいことを言える。SNSを見る人ならば、そんな顔の見えない同士のやり取りがネット上で起こっているのを目にしたことがあるだろう。

 こうして伊坂さんは、「K」を自分たちの遊び場として守ろうとした常連客に追われるような形になった。

【伊坂さんのその後の続きは近代麻雀12月28日発売号に】

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