夢を叶えた者、敗れた者、
見届けた者……
観戦記ライターが見た
麻雀最強戦ファイナル
2020年12月13日
麻雀最強戦2020ファイナル
文・東川亮
※敬称略
12月13日、午前11時前。
普通の人なら、既に起きている時間だろうか。
筆者は深夜まで麻雀最強戦ファイナル 1stStageの記事を書いており、この日はややゆっくりとした起床となった。
身支度をし、家を出る。
この日は麻雀最強戦ファイナル 2ndStageが行われる。
すなわち、2020年の最強位が決まる日だということだ。
その戦いを、前年に引き続き、取材させてもらえることになった。
会場には、独特の緊張感が漂っている。
A卓:誰もが認める強者たちの中で
午後1時半過ぎ、東京都内にある会場に到着。
ロビーに行くと、耳に馴染みのある大きな声が聞こえてきた。
優勝候補筆頭と言っていいだろう、多井隆晴である。
普通なら緊張しそうなものだが、多井は現行方式になってからは3度目のファイナル進出であり、Mリーグなど数々の大舞台を踏んできている。
ある意味で、気持ちの作り方なども身につけているのかもしれない。
「『最速最強』なのに、最強位にはまだなっていないですからね。ここまできたら絶対に獲りたい。獲った後の世界が見てみたい」
前日の対局を終えてからは、ほぼ寝ないで他の選手の試合を見ていたという。
「ファイナルに来た人たちの研究は、誰にも負けないくらいしてきましたよ」
そういって、多井は不敵に笑った。
控え室に行くと、端正な顔の青年がいた。
ファイナリストの一人、本田朋広だ。
「今年しか勝った記憶がない」と語っていたが、今年の彼の躍進は素晴らしかった。
日本プロ麻雀連盟のグランプリMAXで優勝、十段戦でも決勝まで残り、そしてこの麻雀最強戦ファイナルだ。
「ここに自分がいるのが考えられない。A卓は3人のステータスがすごすぎる。僕と同じくらいの人がいてくれた方がよかった(笑)」
とはいえ、遠慮はない。
「これを勝って、みなさんに覚えてもらいたい」
一気に頂点へと駆け上がる気合いは十分だ。
気合いを入れる大本命、緊張した面持ちの若武者。
一方で、普段のお二人をよく知らないものの比較的平常心ではないかと思えたのが、新津潔と近藤誠一。
新津はここまで勝ち上がるのは初めてだが、「1/8なんてまだまだですよ」と笑う。
「いつも通り打つ」、その言葉は本心だろう。
ファイナル2ndStgaeに残った中で、近藤だけが過去に最強位となった経験がある。
ただ、本人は「みんな何かしらで勝ってここに来ているので、自分だけが勝ち方を知っているわけではない」という。
近藤は自身を「恵まれている」と語った。
その幸運は、自らの左手で引き寄せたものに他ならない。
この日は、A卓・B卓で入り時間が違っており、A卓だけで先に場決めを行う。
ある意味で、対局の命運すら左右するかもしれない瞬間だ。
B卓:無欲と野心のせめぎ合い
A卓の準備が進む中で、B卓に出場する選手が会場に姿を現す。
最初に声をかけたのは、新井啓文。
2013年に最高位としてファイナルに臨んだ経験があるが、そのときは「リーチ裏1の2600を1回アガっただけで終わった」。
ならばリベンジの思いも強いと思ったが、本人の心境は違うという。