トップ獲得への
焦燥か渇望か、
Mリーグに潜む
魔物が生み出した、
驚異の大逆転劇
文・渡邉浩史郎【金曜担当ライター】2021年11月26日
【東1局】
金曜二戦目、週の締めくくりとなるこの半荘は……
茅森の、ちょっと意外な放銃から幕を開けた。
七対子聴牌からの一牌プッシュが捕まった形だが
聴牌した時点での茅森の手牌がこう。茅森はここから打ちのドラ単騎としなかったのだ。
アガった時のリターンよりも瞬間鳴かれたり放銃したりするリスクを考えての打ちだとは思うが、それならば親のホンイツが一牌余った後のプッシュは手牌の価値的にも釣り合わなそうに見える。
もしかしたら少し掛かり気味なのかもしれない、と筆者は思った。
考えてみればこの半荘、出場選手は皆トップが遠い選手ばかり。そろそろ焦りが生まれるころだろう。
この一戦は荒れるかもしれないな、そんな予兆を感じさせる滑り出しとなった。
そんな筆者の思いを知ってか知らずか、続く【東1局1本場】は岡田の跳満ツモ。
【東2局】は全員聴牌、高打点の包囲網に囲まれた松本が値千金の500・1000ツモ。
【東2局】【東3局】【東3局1本場】と先制リーチをぶつけ続けた亜樹が三度目の正直でマンガンのツモ。
そのまま【東4局】も良形の先制聴牌をツモアガリ。
その後も流局を挟みつつ、亜樹がアガリ倒し続ける。【南2局3本場】には決定打となるマンガンのツモアガリで55000点を超えた。
オーラスを迎えた段階での点数状況がこちら。
岡田は三倍満ツモから、松本は跳満ツモからで着順アップとかなり縦長の点数状況である。
1着・2着・3着がそれぞれ着順を守りに行く、いわゆる「逆転が起こりにくい」展開だ。
ゆっくりやりたい親番の茅森からすれば、最悪と言っていいだろう。
だがここでドラマが起こる。
【南4局1本場】
親の茅森の第一打を亜樹がポン。くっきりとアガリが見える上に上家松本からのアシストが期待できる、ウイニングランを決める手牌といっていいだろう。
両面受けができてなお盤石に、茅森の親番は風前の灯といったところだが……
ここにきて牌の綾が勝負をもつれさせる。
松本の手牌がこちら。下家の亜樹に鳴かれてもいい牌を選んで切っているが、自身の七対子の目も跳満ツモへの一縷の望みとして残している。その結果自身で三枚使っているの筋を亜樹に鳴かせられないでいたのだ。
アシストの基本はまずは複数枚ある牌を切ること(今鳴けなくても後に鳴ける形となった場合にもう一度アシストできるため・相手に薄いであろう所をアシストできるため)である。
亜樹選手の仕掛けが人読みも含めて相当精度が高い、自身の手が跳満のアガリになることはかなり低いことを考えるとアシスト全力疾走の選択があっただろう。もしかしたらここまでの連続捲られが松本に焦りを生んでしまったのかもしれない。
展開が、茅森を味方した。
後方大外一気の6000は6100オールで松本、そして岡田も大まくり。一気に二着まで駆け上がる。
【南4局2本場】
3着岡田が20400点に対して2着茅森が24900点、いわゆる「伏せれば2着」の点棒状況。
終盤、残りツモ一回のこの聴牌。茅森の選択は……
自分のため、ファンのため、そしてなによりチームを救うため。茅森は上を見続けた。
跳満ツモ条件の松本。この確定ハネマンツモ聴牌からの放銃を誰が責められようか。
裏ドラは乗らずの12600。これでついにトップ:亜樹への挑戦権を獲得した。
【南4局3本場】
再び縦長の展開になった。