見えない攻防
─決め手は美しい構想力─
文・小林正和【金曜担当ライター】2024年4月19日
「らしくない麻雀を打たざるを得ない状況。」
「まだ終わった訳じゃないんで。」
それぞれ溢れ出しそうな思いを短めの言葉に集約して語ったのは、2ndステージ折り返しを迎えた渋谷ABEMASの多井と白鳥であった。
Mリーグ設立時から一度たりともファイナルを逃した事のない昨年度の覇者が
半分以上を消化してボーダーとは▲250以上と苦しんでいるのである。
セミファイナルの序盤こそデイリーダブルを含む4戦全連対により一時は2位まで上り詰めてはいたが、二日間空けての8連戦という変則日程により風向きに変化が。
“優勝チームはファイナルを逃す”
そんな悪魔じみたジンクスが現実味を帯びてきている。
休み明け7戦中6逆連対という数字により、もう一歩も後には引けない状況に追い込まれたのだ。
どんなチームにも歩み寄って来る“アレ”。
2023年度の流行語大賞となった阪神タイガース・岡田監督のあの言葉ではないが、人はそれを“流れ”と呼ぶ。
絶対王者の絶体絶命の中、一人の若武者がその自然の摂理のような“見えない”正体を討伐すべく、果敢に立ち向かって行った。
第2試合
東家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
南家:小林剛(U-NEXT Pirates)
西家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
北家:渡辺太(赤坂ドリブンズ)
違った意味合いではあるが“見えない”会話のキャッチボールが繰り広げられたのは東1局
始まりは松本の、何とか突破口を見出そうとする第一打目にあった。
こちらは1巡目の手格好。
仕上がればチャンタ・三色など高くなる可能性は秘めてはいるが、スピード感に関しては遅れを取っている印象。
オタ風のやドラ表示牌ので様子見するのも有力ではあったが
ここは積極的に前に出るぞという意思表示、ダブを選択。
今では主流となりつつあるが、親が重ねる前に処理する戦法の一つである。
デメリットは、配牌時にトイツで組み込まれている場合だが
今回はそのパターン。
とは言え、松本もここまでは想定内だろう。
想定外だったのは…
次巡・次々巡とがぺぺっと松本の手元へやって来た事だ。
流石にこのツモは想定外だったと思うが、1巡でも切り遅れていたらドラはトイメンの高宮の元へ行っていたので、松本の前に出る気持ちが勝ったとも言えよう。
しかし、その“見えない”やり取りがあった事など知る由もなく一人困った人物が登場。
高宮の上家に座る太であった。
ダブを鳴いていると言う“見えた”制限に加えて、追い討ちをかけられたのが
5巡目に悠々と手の内から見せた高宮のであった。
(私がドラドラよ。みんな私に立ち向かえるのかしら?)
と心の声が聞こえてきそうな戦略的な一打。
高宮もダブは鳴けたものの、打点が確保されている保証もなく速度で勝ってるとも言い難い。
ここはプレッシャーを与えながら相手をミスリードし、時間確保を優先した形である。
その思惑通りに
完全安牌のを消費し、親への絞りに徹する太。
しかし、一変したのは松本の仕掛けであった。
親の高宮が払いを見せる中でのチーを見せた場面。