すぐに多井にもテンパイが入る。
「これ同じ推理だとなんですけど、ただ多井選手はトップ目なので……」(渋川プロ)
「あっ!いった!『こんなヤミテンにするかね?』っていう。これすごいですよ、ふたりとも踏み込んでいますね」(渋川プロ)
いやはやレベルが高い。そして渋川プロの解説もまた面白いし勉強になる。いつしか男たちの狂宴に酔いしれている筆者がいた。
次巡の朝倉、通っていない(は通っているが)も、「こんなヤミテンにする人いる?」の要領である。
ああもう素晴らしい。どんどんやってくれ。かっこいいぞ男たち。
続く多井が手にしたも通っていないが、「こんなヤミテンにする人いる?」でツモ切りだ。
そしてフィニッシュはここだ。多井がついに当たり牌のを持ってきた場面。「こんなヤミテンにする人いる?」かと思いきや、多井は手を止めた。
「これは可能性があるな」と考えているのである。ほかにも愚形(カンチャンやペンチャンなど様々なパターンがある)の待ちが多いだけに切るのもありそうだが。
当たり牌だけはしっかり止めるのである。もう優勝だ。こんなに強い打ち回しを見せられたら優勝しかないだろう。先週に引き続きまたもビタ止めを見せてくれた。
結局、この局は内川と朝倉の2人テンパイで流局となった。
こうして筆者の中から、茅森の姿は先週と同じく消えていった。キレッキレの男たちを前にしてビハインドを背負ってしまっては容易に点棒を取り返すことができない。茅森は厳しくなった。誰も容易に場を崩さないまま流局が続いていく。
しかしこの日の茅森はこのまま終わらなかった。東4局3本場。
「誰も振らないならツモればいい」とばかりに力強くチンイツをアガりきった。この2000―4000は供託の回収も含めて非常に大きかった。これで一気に場が平たくなる。
茅森は今シーズン本当に苦しんでいた。全体的にあまり手が入っている印象がなく、いい手が入っても引き負けたり掴まされたりでチャンスをものにできず、その結果3~4着となってしまった光景を何度も目にした。昨年大暴れした天才の面影は霞んでしまっていた。
この日も耐えに耐えていた茅森。南2局4本場でチャンス手が入った。わずか3巡目でテンパイが入る。余計なことを考えず打ですぐさまリーチ。
が朝倉の手に浮いていた。手牌がバラバラであれば出なかっただろうが、安牌がない上に十分勝負できそうだったのでを打つよりない。
これは茅森にとって幸運だったといえるだろう。リーチ一発赤で8000は9200の加点となった。
さっきまであれほど強かった男たちの表情が暗い。フェニックスがトップに立つのはなんとしてでも阻止したい状況なのだ。これ以上の加点は許されない、皆そう思っただろう。
南3局。茅森の勢いは衰えず、親で4巡目に先制リーチを放った。ここから打でとのシャンポン待ちにしたのだが、捨て牌をご覧いただきたい。ほとんど情報がないのである。
なりふり構わずトップを狙いにいく多井も手が止まった。気合で攻めるならやを切るところだが、さすがに無謀と判断。打として面子を崩した。なんだか場の雰囲気が変わったような気がした。
さらに内川の手にが対子になっていた。これは非常に危ない。安牌がなくなればまず切ってしまいそうな2枚である。
しかし内川はなかなかに手をかけない。生牌のをツモったが構わず切っていく。どちらかというと攻めに重きを置いた一着で、こうなるとを引いた時はが出ていってしまう格好だ。
機をうかがいながら粘っていたものの、を引いてギブアップ。を切ってオリに回った。悔しいようだがナイス判断。を出さなかったのは心底驚いた。いつも以上に3者から守備の意識が見られた気がした。
「流局世界記録出てるんじゃないですか」と渋川プロも発するほど、この対局は流局が多かった。ほとんどカットしてしまい恐縮だが、これで13局中のうち8局が流局となっている。優勝争いが影響しているのは間違いない。
南3局1本場。なかなか土俵を割らない3者に対し、茅森はまたも畳み掛ける。待ちでリーチ。
これに一発で捕まったのは内川だった。手にしたのは。これは自身にとって不要牌だ。先ほどと変わって字牌の対子に手をかければ延命できたが、少考してそのまま河に放った。自身のチーム状況も要因のひとつだっただろうか。
ついに茅森が抜け出すことに成功。7700は8000の加点でいよいよトップが見えてきた。茅森のトップはずいぶん久しぶりである。ポーカーフェイスの茅森だが、その内心はさぞ辛かったに違いない。好調者が多いチーム内でひとり結果を出せずにいたことは、嫌でも意識してしまいそうである。そう思うとトップを取ってほしくなった。
だがそれに待ったをかけようとしていたのがラス親の多井である。
この親は本当に怖い。自分が2着目とは思えない表情である。トップしか狙っていないことは明白。普段とは人が変わったかのような鬼気迫る雰囲気であった。