水平線の先に待つのは未来への航海か、過去への後悔か…船長・小林剛、一世一代の大勝負【Mリーグ2020観戦記3/12】担当記者:真中彰司

親リーチさえかければ多井は止まってくれるはず…

そう思った矢先に小林の手元に飛び込んできたのは、山にたった2枚のだった。

タンピンドラ1のイーシャンテンでこのが止まるわけがない。

痛恨の8000放銃となった。

絶対に加点したい親番で、絶好の配牌をもらいながらも8000放銃。

こんなことがあっていいのか。普通なら、この時点で絶望するはずだ。

小林はわずかに眉を動かしただけで、その表情からは何も読み取れなかった。

どうした小林。今日はいつもより押し気味になっているせいか、ややバランスを崩しているように見える。

東4局のテンパイからをツモ切ると、親の近藤に5800の放銃。

これで持ち点は12200点。トップ条件自体が厳しくなってしまった。

いよいよ絶体絶命になったその瞬間、小林の鉄のハートがわずかに揺れ動く。

東4局1本場、その目は完全に、あのファイナル最終日と同じ目をしていた。

対戦カードはあの日と同じ、フェニックス・ABEMAS・サクラナイツ

まだまだやれる、まだ終わっちゃいない。無機質な男が、静かに燃える目をしていた。

その目に呼応して、小林の手に字牌が続々と重なる。

そして救いは、近藤が連荘を目指して真っすぐ打ち進めていたことだった。

近藤からを全てポンして、渾身のホンイツテンパイ。

勝負所は外さない、小林の力強いツモアガリ。

持ち点を20500点に伸ばし、南場に望みをつなげた。

南1局

小林の逆襲が止まらない。

時間はかかったが、カン待ちで5200のテンパイ。

あと2~3回アガリを取れれば、条件には届くはずだ。船に帆を張り直し、全力でアガリに向かって漕ぎ進める。

息詰まるこの状況で、またもやリーチの発声。

ペン待ちで三色をテンパイした多井が、再び小林の前に立ちはだかる。

「小林、向かってこいよ。だが、ただでは通さないぜ?」

不敵な笑みを浮かべるその表情は、まさにMリーグのラスボス。

そして小林が掴んだのは、ドラの

も多井の現物だが、カン待ちは役無しのためリーチが必要。

は通りそうに見える。

小林は再びスカウターを起動させた。

2021年、「1日1剛」作戦と題して皆勤出場を続け、何度もチームの危機を救ってきたそのスカウターには、何が映っていたのか。

約1分の長考の末、小林はをツモ切った。

レギュラーシーズンの、そしてその先の航海へ向けて、細い細い道を辿っていく。

静寂の中、しなやかにを引き寄せる。

まただ、またやった。この選手は、大事なところは絶対に間違えない。

リーチを掛けていた多井も「ドラ切ってそれをツモるか!?」と驚愕の色を隠せない。

前巡に小林がを切っていると、ツモ切りでほぼ間違いなく親の内川に放銃していた。

小林は、ただ一つの正解を選び抜いたのだ。

南2局

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