最後まで貫いた一人の物語
【C卓】担当記者:小林正和 2023年12月9日(土)
朱色の枠に草色の天板というクリスマスカラーを彩った一卓を網目かかった鉄格子が四方を囲む。
そこは選ばれし者だけが入る事を許される最高峰の頂(いただき)であった。
「パンッ…!!」
初冬の空気のように乾いた、でも少し心地の良い音が舞台に響き渡る。
それと同時に、一人の漢は悟ったように遠くを見据えていた。
その瞳は、まるでビー玉のように光り輝いているのであった。
引き立て役Bにはなりたくない。私は究極のアイドルへ。
C卓の対局者の中で異例の勝ち上がりを決めた選手がいる。
日本プロ麻雀協会所属の篠原冴美だ。
タレント・グラビアアイドルとしても活躍する彼女は、最強戦出場枠をかけた「近代麻雀」の投票アンケート企画において見事に1位指名を獲得。今風に言うと推しの子No.1である。
それをキッカケに仲田加南や菅原千瑛といった実力者を押し退け、今度は自らの力でファイナリストへ。
しかし、それまでは批判的なコメントもあったそうだ。
“所詮はグラビアアイドル”“麻雀は二の次だ”。麻雀に対する秘めた思いに反するように、心外な言葉が篠原を襲う。
「やっぱり… 大きな結果がないと認めてもらえないのかなと。」
今回の最強戦を勝ち取り、その先の最強で“究極の”アイドルになれるか。
ところが1stステージで対峙する相手は、いきなりMリーガー3人である。
まずは最強戦二連覇中。
TEAM RAIDEN/雷電、瀬戸熊直樹。
過去・現在、そして恐らく未来において三連覇に挑戦するのは、全人類史上この漢しかいないだろう。
新たな歴史を刻めるか、一つの注目ポイントである。
第15期最強位を戴冠しているたろうは、予選ではオーラスに劇的な四暗刻ツモで大逆転勝利。全選手の中で一番の追い風を感じているかもしれない。
相手を惑わす“ゼウスの選択”で再びパルプンテを引き起こせるか。
そして、最後に登場。
U-NEXT Pirates、仲林圭。
(ん…。キリッとした目元あたりは少し似ているが、少し違う…。)
新鋭の如く現れた、日本プロ麻雀連盟関西本部所属の桑田憲汰だ。
29歳プロ歴5年目の彼は、普段は麻雀店の従業員として日々を過ごしている。
応援メッセージも家族やお店のお客さんからの声援で溢れ、実況・解説陣の目頭も熱くさせていた。
そんな愛されキャラ桑田だったが、いきなり悲劇が待ち構える。
東1局
篠原の4巡目リーチを受けながらも、持ち前の“全ツ麻雀”で親のタンヤオ・ドラ3まで育てると
テンパイの入った西家たろうのリーチ宣言牌を掴まえる事に成功。
桑田
「ロンッ!!」
見た目通りの歯切れの良い発声。
しかし、
篠原
「ロン。」
こちらも見た目通りのフェミニンボイス。
桑田
(………。)