篠原は北家。
そう。
上家の2,600頭ハネである。
この局は篠原の愚形・ドラ無しながらも、積極的な姿勢が功を奏した形だ。
結果にこだわりたいと対局前インタビューで打ち明けた通称さみぃ。このアガリで程良い緊張をほぐし、攻めにシフトチェンジして行きたい所。
しかし、その推進の準備が整ったベクトルを後退に追い込む大きな壁が現れたのは東2局
現最強位、瀬戸熊の親リーチであった。
役ありで且つ手替わりもそこそこある牌姿にも関わらず、間髪入れずに宣言。
① 二人抜けのシステムの場合、子方が一歩引くケースが増える。
②
や
による後筋も出アガリ率が高まるので、イメージ的には![]()
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待ちの感覚。
③ 時間を作ってツモ回数を増やし、裏1の4,000オールのアドバンテージが大きすぎる点。
が主な理由との事。
これが経験値というものなのか、攻めの手組みをしていた篠原に見えないプレッシャーを与えていく。
トップ目で巡目も深くなった17巡目。更にドラの
待ちと普通は止める人の方が多いかもしれないが、篠原はテンパイを取らなかった。いや、取れなかったのかもしれない。
ここは柵に囲まれた未知なるステージ。いつも応援してくれるファンは今は誰一人いないのだ。
徐々に冷えていく心臓。
それを顕著に鷲掴みされたのは東4局だった。
自身を鼓舞するかのように
ポンしてアガリに向かう篠原。
しかし、道中に少しばかりの時間を使って手からカン材の
を見せると
それまでヤミテンに構えていたたろうが、その姿を見るや否や空切りリーチとする。
感じた事のない苦しさが心臓をえぐりとるように彼女を襲うと
一瞬で手牌を崩させた。
往年から凌ぎ合う瀬戸熊・たろうの両名による偉大なる存在をひしひしと感じ取っているのではないだろうか。
越えなければならないもの。
麻雀打ちとして認められてもらう為に。
究極のアイドルとして、必要なものを再確認できた瞬間に私の目には映った。
歴史を打ち破る。そして、現最強位の覚悟。
表情には出さなかったが、開局に痛恨の頭ハネで加点チャンスを流された桑田。
失点を最小限に防ぎながら時が訪れるのを待つと、その瞬間がやってきたのは南2局であった。
解説・近藤
「この局に一人勝ち上がりを決めるアガリが出そうですね。」
と予言するかのように、それが言霊となって対局が進んでいく。
5巡目、桑田が何気なく
をアンカンすると
新ドラ表示牌にめくれ上がったのは
これが全日本プロ選手権優勝の底力なのか。
一気にドラ4内蔵の大物手へ。
この大舞台において思いもよらぬ幸運“セレンディピティ”を舞い込むと
上手く残した
をトイツにしてリーチまで漕ぎ着ける。
この接戦において、目に見えて三者には重すぎる一声。
しかし、その挑戦のような姿勢に真っ向勝負で挑んだ漢がいた。
瀬戸熊直樹である。
「リーチ。」
深い声がその覚悟を物語っていた。
待ち枚数は瀬戸熊が3枚。桑田は1枚と瀬戸熊の方が多い。
しかし、
“リンゴは下に落ちる。”
そんなニュートンのような理はここでは通じない。















