「8000」
この時ばかりは冷静な勝又も安堵のため息を1つついた。
またしても風林火山は死線を1つ越えたのだ。
その後は勝又への挑戦権を得るために、多井と内川がぶつかった。
東2局。
まず内川が鬼の形相でリーチを打つ。
チートイのドラ単騎だ。
そこへ親の多井も仕掛けて対応。
こちらも並ならぬ雰囲気を醸し出している。
「この2日間は今まで3年間同じチームでやってきた見たことがない表情をしている多井さんでした。」
とチームメイトの白鳥は語る。
レギュラーシーズン圧倒的な強さを見せつけたABEMASがまさかの大失速。
逆転の起こりやすいレギュレーションとはいえ、ここまでの展開になるとはショックも大きいはずだ。
多井はこの状況に追い込まれたことに責任を感じている。
だからこそ負けられない。
2つ晒してのホンイツテンパイで内川のリーチに猛プッシュしていく。
どちらが勝つのか。
そしてどちらが散るのか。
日吉「今期最後のめくりあい!」
多井か。
内川か。
この局の結末は…
2人テンパイで流局。痛み分けとなった。
2人の間で揺らいでいたシャーレはどちらにも寄り添わない。
そしてその後も2人にアガリが訪れることはなかった。
皮肉にもほぼ目無しとなっている村上にアガリが集まり、多井と内川はオーラスを迎えて
役満の直撃のみ、というおよそ現実的でない条件まで点棒を減らしてしまった。
最後も村上がアガリ切り、トップを決めた。
こうして…
22:30 風林火山の優勝が決定した。
内川の表情は晴れやかだった。
あと一歩及ばなかったという悔しさと、やれることはやりきったという充実感と。
多井は悔しさを滲ませ、泣いていた。
よほど責任を感じていたのだろう。
「今年はこんな結果になってしまったけど、いつか勝ってみんなで笑いたいと思います」
レギュラーシーズンもセミファイナルも好調だっただけに、ABEMASの悔しさは計り知れない。
今年の最終戦は、麻雀の持つ無情さを感じる半荘となった。
どうしても負けられないと臨んだ2人が、ただの1つのアガリも拾えなかったのだ。
負けられないのはみんな同じ。