雀ゴロ生活は
ヘタ殺しが基本
私がむかし良く通っていた、東京神楽坂のフリー雀荘が、最近とうとう閉店しました。
ピンのワンスリーご祝儀500の伝統的なフリーですが、希望者が揃うと2の2-6の東戦もやってました。
東戦は雀荘から見ると短期間で売り上げが上がって儲かるんですが、お客さんがゲーム代負けして潰れてしまいがちです。
今まで良く続いたものだと、逆に感心してしまいます。
かつて私が勝手にベンツさんと呼んでいた、自称ヤクザがこの店で遊んでました。
本当にヤクザだったかどうかは分かりませんが、そのほうが生活の足しになってたんだと思います。
あ、ベンツに乗ってたワケじゃなくて、スモークのサングラスがベンツの窓ガラスを連想させただけです。
実際ヤクザ的な仕事はやってました。
「山ちゃん、最近顔を出してないアイツにこの前の貸しがあるんじゃないの?」
「ある」
「切り取り半分でどうよ?」
債権回収を代行するから成功報酬50%でどうか、という意味です。
「2割で良けりゃ先払いもするよ」
仮に貸しが十万円だったら、二万円で買い取り、いくら回収するかは、切り取り屋の腕しだいということです。
これが会社になればサービサー(債権回収会社)という立派なお仕事になります。
「山ちゃん、チャリで走ってて高級車に当てられたんだって?」
サングラスを下げて、こちらを覗き込みます。
「その示談、俺に売って」
もちろんどちらもお断りしました。
ベンツさんは少額金融もやっていたので、常連のなかには、彼に頭が上がらない人もいました。
そんな力関係は彼の麻雀を有利にしているように見えました。
「リーチ。俺様の一発を消しやがるとトイチからトサンにするぞ」
10%の利息が30%になるぞと。
ベンツさんの得意技はヘタ殺し。
なるべくヘタなメンツを選んで打つんです。
今のフリー雀荘はそんなことは許されませんが、かつては黙認されてました。
地下鉄職員のおじいさんがボーナス日に遊びに来た時はエグかった。
三日三晩の勝負で、根こそぎムシリ取って、さらに高金利で貸し付けまでやってました。
「鉄さん、このまま帰ったんじゃ女房に顔向けできないだろ、少し(金を)回そうか」
私も半日くらい参加して、少しお小遣いを貰いました。
すみません。
水商売の女性を連れて来ることもありました。
私を離れたところに呼んで耳打ちします。
「あれには金かけて連れて来たんだから、山ちゃんにガジらせるワケにはいかねえ」
その代わり、ふだんカモにしているおじいさんを入れてました。
ここらへん上手いです。
麻雀でも日常的にもあまり付き合いたくない人ですが、ある時興味深いことを聞かせて貰いました。
「俺らは見栄を張るのが稼業だけど、本当は貧乏人だらけ。チンピラは全員極貧、幹部でも8割は貧乏してる」
「贅沢できるのは親分だけ?」
「いや、親分の半分近くは実は貧乏だろうな」
だそうです。
「臆病者の集団だよ。いつも敵にビクビクしてて、鬱病になったりアル中になったり。酒で肝硬変から肝臓ガンになって死ぬヤツも多い。本職のケンカで死ぬヤツなんかほとんどいない。いないのに、それを恐れて自殺や病気で死んでる」
弱そうにみせたり
強そうにみせたり
ベンツさんは、麻雀がヘタなおじいさんやカモの女性には、自分を弱そうに装います。
「え、これがロン? スジで通ると思ったのにかなわねえなあ」
「出ると思ったんだ」