桑田憲汰、強敵も常識も、
全てを飲み込むスーパーノヴァ
【B卓】担当記者:東川亮 2023年12月10日(日)
麻雀最強戦2023ファイナル、2ndステージに勝ち上がったメンバーを見てみよう。
歴代最強位の鈴木たろう・鈴木大介に、高宮まり・内川幸太郎・猿川真寿というMリーガー勢。元Mリーガーであり日本プロ麻雀連盟のA1リーガー、和久津晶。史上初のアマチュア最強位連覇を成し遂げたももたん。そうそうたる顔ぶれである。
そのなかにあって、異物と言っても差し支えない、無名の男が一人。
桑田憲汰(くわだ けんた)。
全日本プロ選手権を勝ち上がった、関西で活動する5年目の麻雀プロである。
今回の麻雀最強戦以前に彼を知っていた方は、特に関東の人はどれだけいただろうか。失礼ながら僕は、彼の名前を「くわだ」と読むことすらファイナルまで認識していなかった。
B卓を見終えた今、自信を持って断言する。
今年の麻雀最強戦最大の発見は、間違いなくこの男だ。
東1局。
桑田は第1ツモでドラが暗刻になった。赤のない麻雀最強戦ルールでドラ暗刻は、自身の打点はもちろんのこと、相手の手の価値が相対的に落ちやすくなることも意味している。
この局で先制を取ったのは内川。ただ、ご覧の通り役もドラもない愚形待ち。もちろん親リーチの圧力はあるのだが・・・
ドラ3の桑田にとって、親リーチなど足を止める理由にならない。元より雀風は「全ツッパ」、ノーテンから無スジをたたき切って押し返すと、カンチャンから埋まった絶好のリャンメン待ちテンパイになり、もちろんリーチ。
枚数は少なかったが内川がつかみ、リーチドラ3の先制パンチをお見舞いした。
親リーチへの押し返しは見事だった。しかし、これくらいであれば同じように打つ者も少なくないだろう。桑田が視聴者の度肝を抜いたのはここからだった。
東3局、桑田は和久津を1万点ちょっと離したトップ目にいる。捨て牌が3段目に差し掛かるタイミングでカンを引き入れて、ペン待ちリーチをかけた。これは、なかなかできることではない。
理由は河にある。何せは猿川が2枚、和久津が1枚切っていて、目に見えて残り1枚。が場に見えていないことから、ターツやメンツで持たれていることも十分あり得るだろう。実際、山には残っていなかった。もちろん終盤の親リーチで相手に手を崩させる効果もあるかもしれないが、チャンス手の相手の反撃だってあり得るし、そこに振り込みでもしたら目も当てられない。
だが、この奇襲が決まるのだ。残る1枚を持っていたのは猿川、ドラドラで手広い1シャンテンだったところで、桑田の切ったをポン。
4枚目のも自身の手の内ではノーチャンス、そもそも目に見えて3枚切れている待ちなんかでトップ目の親がリーチをかけてくるはずがない。
そんな思考を打ち砕く、理外のリーチが炸裂した。裏ドラも乗って7700は、トップ目からの大きすぎる加点。
普段はひょうひょうとしていながら、「モンキーマジック」と呼ばれる奇想天外な手筋を武器とする猿川の、ぼうぜんとした表情がやけに印象に残った。
次局、猿川が役満・国士無双のテンパイを入れる。待ちのは内川に暗刻、桑田に1枚と山には残っていなかったが、
桑田の手牌はこの形。が暗刻になってテンパイすれば、が打たれる可能性もあった。
だが、桑田が和久津の切ったをチーして一気通貫のテンパイをとると、
猿川に流れた牌は、既にテンパイしていた和久津のロン牌、しかも高目のドラ。ドラとは言え、役満テンパイなら切らない理由はない。
猿川から和久津へピンフイーペーコードラドラ、8000は8300の放銃。は場に3枚目だったのでもちろん桑田は鳴くのだが、その結果が桑田に利して猿川に逆風となる。
だが、猿川もただでは終わらない。南2局、内川からチンイツの8000を出アガリして2番手和久津の親番を落とし、望みをつないだ。南3局、トップ目の桑田は無理をするような状況ではない。アガれるならアガるが、基本的には局消化に努め、リスクを負うようなことはしないだろう。
・・・果たしてこの男が、そんなタマだろうか。
違う。
桑田は役なしドラ1で先制のリーチをかけた。あくまでも手牌に向き合い、アガれるならしっかりとアガリに向かう。ある意味で麻雀の原点とも言える打ち方だ。和久津は元より、猿川もこのリーチに振り込みたくはない。後がない内川としても局が増えるのは歓迎だが、それを自らの放銃で生んでは元も子もない。
流局し、1人開けられた桑田の手を、歴戦の猛者3名がじっと見つめる。その手でリーチをかけるのか。背中を冷たいものが伝う。