次局、猿川が逆転通過を目指してピンフ高目イーペーコーのリーチをかけるが、
希望の芽を根こそぎ刈り取るかのような、桑田の仮テン単騎ツモ。さらにリードを広げていく。
通過ポジションにいる和久津ですら、この表情である。この局、自身のドラドラチートイツが実らなかったこともそうだが、親が連荘すればするほど、自身が窮地に立たされる可能性も高まる。
さらに次局、桑田は仕掛けてテンパイを入れていたが、アガれないままツモ番がなくなった。流局したならノーテンを宣言して親番を流し、あとは猿川に放銃しないように守備を固めつつ、和久津をアシストすれば決勝進出。2万5000点以上のセーフティーリードがあるなら、それが競技麻雀におけるセオリーのはずだ。
それでも、桑田は手を開けた。もちろん、彼とてそれなりのプロ歴があり、ノーテンにする理を分かっていないはずはない。そして、それをしないことにも彼なりの理があるのだろう。桑田が手を開けたのを見て、和久津が一つうなずいた。おそらく、彼がそうすることを薄々分かっていたのだと思う。
桑田は最後までしっかりと攻め切り、オーラスも自らのアガリで決着をつけた。2着で決勝進出を決めたのは和久津。猿川、内川というMリーガー2人がここで姿を消した。
対局の主役は、間違いなく桑田だった。強敵3人を相手に回しての圧勝劇は、見ていた人たちに強烈な印象を残したはずだ。わずか半年前、彼は世の中に2000人以上いると言われる麻雀プロの一人でしかなかった。それが今や、最強位に手が届くところまで迫っている。そして、麻雀に長けた人が唱える理をも超越した打ち筋や強さには、人の心を動かす何かがある。
スーパーノヴァ。
日本語では「超新星」、白色矮星が起こす大規模な爆発によってとてつもない光が放たれる現象を指す言葉である。
桑田憲汰。
麻雀界に突如として現れた超新星は、今や麻雀最強戦を、そして麻雀における常識をも飲み込み、とてつもない輝きを放とうとしている。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。