が先に切れているリーチで、が通っているからだ。
マンズの下はまず沢崎にある。
そしてが通って海底でをまだ引ければ、テンパイの可能性も残る。
海底は結局現物でノーテンになったが──、ここもよく耐え忍んだと思う。
しかし1局だけ。
白鳥が、老獪な沢崎に搦めとられる場面があった。
それは東4局2本場、沢崎のこのような手牌からだった。
西家沢崎はここからマンズのホンイツを見てと落としていく。
を見せないのは、ホンイツの色を絞らせない基本の進行だ。
ところが3、4巡目に連続でドラを引いてこの形。
これはもう、チートイツドラドラで良くなった。
さて、ここでがもう3枚場に出ているため、は狙いどころの牌となっている。
しかし沢崎が切ったのは、そのだったである。
これはどういうことなのか。
など全然より重なる雰囲気のある状況でもない。
しかし、疑問は次巡にすぐ氷解する。
沢崎は、を重ねてあっさりと単騎のリーチ。
宣言牌は、である。
実際この手はホンイツ進行でスタートしているため、
先に、遅れてのルート通りの捨て牌になると、字牌の警戒度が増してしまう。
どうだろう、この捨て牌。
字牌単騎のチートイツと思えるものだろうか?
白鳥は沢崎の序盤の切り出しに違和感を覚えつつも──。
自身でも切っているは止められず、放銃となってしまった。
傍目には沢崎のこうした目立たない工夫は、印象に残りにくいかもしれない。
結果を見れば白鳥がマンガンを打ち込んだその事実だけが残ってしまうのだが、
これは1巡の切り順を凝らした沢崎の老練の技が──、白鳥の羽を撃ち抜いた瞬間だったと言えよう。
この半荘は、沢崎がトップ。
白鳥はこの1回の放銃が響いて3着となってしまった。
しかし、である。
この半荘、白鳥を襲ったリーチ棒の数は、実に16本。
14局しかないゲームだったにもかかわらず、だ。
対して白鳥自身のリーチ回数は0回。
1回もリーチで無思考のツモ切りに逃げる状況などなく、
ただただ16回のリーチの弾幕をくぐり抜けて来たのである。
放銃は、この沢崎への1回のみだ。
早くて待ちなどまるで読めないリーチもいくつもあった。
最終手番で2分の1を選択しなければならない状況も何度もあった。
熟達の狩人に片翼をもがれながらも──、
無限のように繰り返される守勢の状況を、
白鳥は、その強靭な集中力と精神力で生還したのである。
白鳥は日向の無念を晴らせなかったかもしれない。
しかし、猛攻を巧みに、必死にかわし続けて次戦以降にリベンジをつないだその翼は、
チームメイトに勇気を与える、とても雄々しいものに映ったのではないだろうか。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki