そして1本場の次局。
本田はこの手。
ドラドラではあるものの、倍満ツモ条件であるため、ジュンチャン三色進行で打として行く。
そして5巡目に、ツモと来てしまう。
ここで私は、前局のあの瞬間を、思い出したのである。
あそこで本田がをチー、と言ってを勝負さえしていれば。
テンパイ料で園田との差は14900のまま、高宮とは13300差で、トップ条件はハネツモに緩和され、
ここからも無理なくを切って、5巡目のをとらえていただろう。
そして──。
6巡目のこのツモで即リーチを打つ。
一発ツモか裏1枚でハネツモになる。
この次巡、本田が持ってきた牌は──。
一発ツモのだった。
無粋なことを言えば、Mリーグは配牌も前局から決まっており、ツモる牌も変わりようがない。
つまり、前局のあの1巡に、チーと言うだけで。
この半荘のトップは雷電だったのである。
もちろんそのが当たって、12000と言われることだってある。
相手の手牌など見えない極限の大舞台で、選手がここまで心血を注いで打っている麻雀に、
無責任にこうした方がいい、ああした方がいいなどとは毛頭言う気はない。
実際こんな観戦記の、誰からも批判されないような安全な場所で、
選手の誰も、ファンの誰もが喜ばないようなことを言うのは本当にただの糞野郎だと思う。
本当に、こんなのは嫌なんだ。
だが、今の絶望的な状況でも暖かい声援を送り続ける雷電ファンの人に対しても、
申し訳ない気持ちでひたすらに戦い続ける雷電の選手たちに対しても、
私はもどかしくて仕方がなかった。
「フリテンリーチしてたら──」
「チーして東勝負してたら──」
これらは傍観者の身勝手な感想だ。
しかし、特別に何か難しすぎるという選択ではないし、
実際選手たちもそうやって違う未来を選ぶことだって、間違いなくあるはずなのだ。
誰だって、できたかもしれないのだ。
雷電はチームが個人主義である性質上、選手同士が検討したりする機会がほとんどない。
赤坂ドリブンズやU-NEXT Piratesとそうした面では大きな違いがある。
誰かが違う選択を提案してみたり、議論するということがないのである。
だからこそ、こういうもしかしたら誰も問いかけなかったようなボタンの掛け違いほどの選択が、
全く異なった世界線に通じていたような気がして、私は悔しくて仕方がないのだ。
雷電は、もっと戦えるチームだと信じている。
今期はもちろん、牌運にも展開にも恵まれないことは多くある。
それでも純粋に、次は勝つ、次は勝つと応援してくれるファンのために、
選択できる勝利への、本当にかすかな道筋を、チーム全員で見つけられることを心から祈っている。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki