ふいに、「僕の麻雀を示して、明確な”結果”をチームに持ち帰りたい」と言っていた言葉を思い出した。Mリーガーの中で松本と同じ日本プロ麻雀協会の堀慎吾選手に、松本の麻雀、イコール強さについて聞いてみた。
「マツ(松本)の強さ…ですか…」
堀はタバコに火をつけ、暫く黙ったあと語り出した。
「麻雀で“結果”を出せる人について、私はツキ以外に二つの大事な要素があると思っています。一つは『基礎雀力』。マツはこれを、とても高いレベルで持っています」
松本の打牌は致命的なミスが無く、当たり前の選択を決して零さない。堀はこれを『基礎雀力』と表現した。
煙を燻らせながら、堀は続ける。
「もう一つは、『適応力』ですね。ルールや環境、相手の傾向、勝利条件に応じて、勝ちやすい打ち方に微調整することで、これは麻雀で勝つために最も大事な能力と言っても過言ではないです。基礎雀力があっても中々勝てないという人は、この能力が足りていないことが多い。マツは、この『適応力』がトップクラスに高いです。これは勉強で簡単に身につくものではなく、『センス』と言い換えても良いかもしれません。
堀の言葉を浮かべ、冒頭の牌姿に戻る。対戦相手によっては、早めの打が将来のペン待ちの布石となり、効果的かもしれない。しかし、「松本の手牌は萬子の上に何らかのブロックがありそう」と捨牌から正確に読んでくる面子が相手であれば、布石に拘るよりも、打として好形変化の種を残して素直な両面リーチを目指した方がいい。上述の盤面に限らず、こうした無数の細かい判断における「正確無比さ」を支えるのは、松本の類まれなる『適応力』であると、堀は語っているのだ。
次巡、松本が意思を持って残したにがくっついた。
即座にを引き入れリーチをした松本。「お手本にしたい手順ですね!」解説の渋川難波が唸る。
その手順に、その背中に、モニターの向こうで釘付けになっている我々の高揚を連れたまま、松本は一発目のを手元に置いた。
これまで逆転されてきた半荘の数々が、安堵の吐息をより一層深いものにする。この倍満のリードを守り抜いた松本は、喉から手が出る程欲しかった結果“を、ようやくその両手に収めたのである。この日を含めて松本は3連勝を果たし、4年連続のファイナル進出に向けて、チームポイントを大きく伸ばすことに貢献した。
5月で30歳を迎える松本。堀慎吾が認めたその確かな実力を右腕に、「若さ」から次のステージへと上がる。
「昨シーズンは個人5位とそれなりの結果を残せていたので、今シーズン序盤に沢山逆転はされましたが少しだけ気持ちに余裕をもって中盤戦以降に臨めました。ただ、3年連続ファイナル進出を果たして優勝を決められなかった不甲斐なさを払拭するために、いまは少しでも自分ができることを積み重ねて、今年こそ優勝をサポーターの皆様に持ち帰りたいと考えています」
穏和と情熱をバランスよく携えた眼光は、松本だけのものだ。
元 日本プロ麻雀協会所属(2004年~2015年)。
会社に勤める傍ら、フリーの麻雀ライターとして数多くの観戦記やコラムを執筆。
Twitter:@ganbare_tetchin