「若さ」よ、
これまで世話になった
30歳を迎える松本吉弘の
内側にある決意とは
【Mリーグ2021 レギュラーシーズンメモリアル】 文・藤原哲史【特別寄稿】
12月7日第1試合
東家:滝沢和典(KONAMI 麻雀格闘倶楽部)
南家:黒沢咲(TEAM RAIDEN/雷電)
西家:石橋伸洋(U-NEXT Pirates)
北家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
東1局 北家の手牌。
を持ってきた松本の手が止まった。
ドラは。何を切る。
将来のペン待ちの布石を打つならか。マンズの上は悪くなく、ポンテンも取れる。はたまた、切りでペンチャン整理か。しかし、好形が確定していない中でリャンシャンテン戻しは少しやり過ぎかもしれない。
やがて松本は、ひとつの牌を選んだ―――
松本吉弘が所属する渋谷ABEMASは、Mリーグ創設の2018シーズン以来、唯一3年連続でファイナル進出を達成しているチームである。
チーム最年少の松本は、在学中に日本プロ麻雀協会へ入会、以来A1リーグまでほぼストレートで昇級し、24歳の若さで發王位を獲得、勢いのまま初代Mリーグ入りを果たした選手である。
世間が羨むようなシンデレラストーリー。しかしその華やかなキャリアとは裏腹に、彼の表情に傲りは無かった。
「いつも、これが最後の対局になるかもしれないという気持ちで対局会場に向かっています。キレイな言葉に聞こえるかもしれませんが、僕の真剣な心構えです」
今日もこの場所で打たせて貰える感謝の気持ちが、松本の腰を深く折る。
「僕は正直、若さとキャラクターでMリーガーに選んでいただいたと考えています。しかしMリーグ4年目を迎えたいま、若さもキャラクターも僕以上に持つプレイヤーが沢山参戦してきました。皆さんが思っている以上に僕の長所にはリミットが迫ってきている、そう考えています」
松本の胸に住みつく想いが、少しずつ言葉になっていく。
「勿論、選ばれたからには諸先輩にも全力で立ち向かいますし、やってやるぞという気概もあります。ただこれまでは、負けると『若いから仕方ないよね』周りからそう言われることが多かった。でも、僕はそろそろ『若さ』から抜け出したい。そのためには、僕の麻雀を示して明確な“結果”をチームに持ち帰ることが大事だと思っています」
真っ直ぐに響く声で、松本はそう語った。
同世代の選手にとっては、もはや雲の上の存在となりつつある松本吉弘。しかしその内側には、ひとりの青年の等身大の苦悩があった。
もっとも、「結果が欲しい」という気持ちだけで勝てるほど、麻雀は甘美なものではない。負けられない強い想いは、Mリーガー32名それぞれが胸に抱いている。2021シーズンが始まり、偉大なる諸先輩は、松本が東場で搔き集めた点棒を、想いを、これでもかというほどオーラスでかっさらい逆転していった。
10月19日、勝又にリーチ一発裏裏条件を満たされたことを皮切りに、
10月25日、接戦の勝負を競り負け、
11月2日、地獄単騎を一発でツモられ、
11月8日、あっさりと高目のドラをツモられ、
11月26日、海底で6000オールをツモられ、
なんとも悲しい1行ずつの日記である。10月19日から11月26日に至るまで、実に6戦中5戦、オーラスで逆転負けを喫したのだ。
他家を観察し、将来に備えてリスクを処理し、伸ばせる手はギリギリまで伸ばし、できることは全てやってきた。それでも展開が意地悪をして、一番欲しかった“結果”の二文字だけが両手の隙間からスルスルと零れ落ちていく。松本はただ、歯を食いしばり耐えることしかできなかった。
また「若いから仕方ない」では終わらせられない。
そうして迎えた12月7日、冒頭の牌姿である。
今度こそ、どうしたら“結果”をチームに持ち帰れる? ? ?
冒頭でも述べた通り、打とした場合、ポンテンを取ることができ、また将来ペン待ちとなった場合の出アガリ率向上が期待できる。
を引っ張れば引っ張るほど、からの打を警戒されてしまうためだ。
打とした場合、リャンシャンテンとなってしまうが、他の部分を厚く持つことで好形テンパイが作り易くなり、また瞬間の引きでのリャンカンの形が取れる。
我々が首を傾げている中で、松本は時間を掛けずふわっとをツモ切った。
元々鳴きづらいドラとのポンテンは捨て、好形変化の可能性を残したのだ。
この段階でを打つ人も多いと思うが、ノータイムでツモ切ったに、これが松本の麻雀だと感じた。