こんな苦しそうな表情でツモりにいく多井を見たことがあるだろうか。
ツモれ！ 
！
掴め！ 
！
ABEMASサポーターとサクラナイツサポーターの思いが交錯する中、多井がツモってきたのは…
だった。
ツモ切りたのは山々だが、堀に対しての危険度が上昇している上、シャンポンに受けてツモったら6000オールとなる！（トイトイ・三暗刻・
・赤）
もしここで6000オールをツモれば滝沢をまくってトップ目に立ち、それすなわち優勝ポジションとなる。
多井は
を切った。
サクラナイツに傾きかけていた優勝シャーレがフェニックスに転がり、そして今ABEMASが手をかけようとしている。
「ツモ」
やはりこの男が立ちはだかった。
たとえ四暗刻をツモった時でも静かにツモ牌を置いていた堀だったが、このツモだけは力がこもっていた。
ABEMASの野望を打ち砕き、近藤を再び抜き返す30006000！
決意を込めた「はい」と返事をしたあのときから、この瞬間を虎視眈々と狙っていたのだ。
明日だった今日が昨日になり、やがて過去を形作っていく。
時の流れは一方通行であり、二度と今という時に戻ってくることはできないのだ。
長きに渡った戦いは、着実に終わりの時を迎えようとしていた。
南３局
終わったはずの多井に起死回生の手が入るも流局。
南４局は堀が2000オール、7700とアガって安全圏まで逃げると、最後は
静かに手牌を伏せて戦いは終わった。
この瞬間の日吉の実況を書き起こす。
桜のように美しく
ナイトのように心技を兼ね備えよ
不易流行の志を未来へ
朝日新聞Mリーグ2021-2022ファイナルシリーズ、チャンピオンチームは…
KADOKAWAサクラナイツです！
思えばこの２年間、多くの人が堀の麻雀に魅了されていたように感じる。
強さを追求し、どこまでも深く読み、その上で誰よりも強者との戦いを楽しんでいる堀の姿は、麻雀打ちの理想と言えるのかもしれない。
堀のもとに仲間が駆け寄ってくる。
岡田の目には涙、内川はさわやかな笑顔だ。
そして森井監督。Mリーグ初年度は熱烈なABEMASサポーターだったのに、数年後にそのABEMASを撃破しての優勝をしているなんて微塵も予想していなかったに違いない。
忘れてならないのが持病で戦線離脱した沢崎。
精神的支柱がいなくなったからこそ、団結力が増した。
そして今、沢崎に優勝シャーレを届けることができたのだ。
沢崎は息子・娘のような仲間の活躍を、いつものようなニコニコとした笑顔で見守っていただろう。
閉会式。
昨年は壇上にも上がれるか心配になるほど疲弊していた多井だったが、今年は晴れやかな表情をしていた。
それは、白鳥・松本・日向への信頼が最大限まで高まっているからではないか。
３人は頼もしいくらいに成長し、１人ではなく全員で勝とう、いや勝てる、と心から言えるようになったのだと思う。
フェニックスも同様だ。
一度は優勝を掴みかけていただけに、準優勝という結果は悔しくて仕方ないが、戦える自信があるからこそ、泣くのは勝ってからということか。
「セガサミーフェニックスは必ず羽ばたきます」
魚谷の言葉が力強かった。
初の連覇を目指すサクラナイツは、今度は各チームのターゲットになるだろう。
「打倒サクラナイツ」
「今度こそは」
「この半荘こそは」
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