前年度王者として臨んだ2020-21シーズンは、7位でレギュラーシーズン敗退。
2021-22シーズンはレギュラーシーズンこそ首位通過したもののセミファイナルで失速し、6位。
2年連続でファイナル進出を逃したU-NEXT Piratesは、
「同一の選手構成且つ2シーズン連続でファイナルシリーズに進出できなかった場合、翌シーズン最低1名の選手を入れ替える」
というMリーグの選手入れ替え規定が適用される、初めてのチームとなってしまった。ファンの注目が集まる中、チームは朝倉康心・石橋伸洋との契約満了を発表。2選手を入れ替えるという驚きの決断の背景にどのような意図や思いがあったのか、そしてどんな選手を加え、どのように新シーズンへと臨むのか、チームの木下尚監督にお話をうかがった。
(取材:東川亮 取材日:7月1日)
■朝倉康心との契約満了について
─まず、今回の選手入れ替えについて、詳しくお聞かせください。
木下 チームの発表で「過去4シーズンのポストシーズンも含めた通算成績を指標として」とコメントしましたが、この通算成績については、U-NEXT Pirates(以下、パイレーツ)だけでなく、他チームの数字も参考にしました。今シーズン優勝したKADOKAWAサクラナイツさんを始め、渋谷ABEMASさん、KONAMI麻雀格闘倶楽部さんについては、通算成績で3桁以上のプラスを持っている選手が3人もいるんですね。パイレーツとしても今後常勝を狙っていくのであれば、それくらいの成績が期待できる選手が必要だと考えています。
契約満了となった朝倉選手と石橋選手は、全シーズンの通算成績はマイナスでした。ただ、朝倉選手に関しては今シーズンをプラスで終えていたので、どうするかは最後の最後まで判断に迷いました。
個人的に、朝倉選手の雀力はトップクラスだと思っています。また、オンライン麻雀の「天鳳」や「雀魂」では最高段位を取っており、パイレーツのこれまでのチームカラーそのものとも言える選手だったと認識しています。しかし、持っている雀力を100パーセント、場合によっては120パーセント出すためには、やはりメンタルの部分が同時に兼ね備わっていないといけないと考えています。
今シーズンはプラスで終えていますし、これまでのシーズンに比べれば、一度のラスで落ち込んで気持ちが前に向かなくなってしまうようなところはだいぶ良くなっているように見えましたが、2019シーズンで5連続ラスを引いたところから少しメンタルに影響が出始めていると、ずっと感じていました。5回のラスの中にはチームを勝たせるために個人で犠牲を払ったような試合も含まれていますし、そこまで気負う必要はないと、本人にも伝えていましたが、やはりどこかおかしくなってしまった印象があります。
また、一度漫画のキャラクターの仮装をして出場した試合で、誤ツモをしてアガリ放棄になったシーンがありましたが、あのときのインタビューで、聞く人によっては引退宣言にも聞こえるようなことを言っていました。あれ以来、本人の中には「自分はMリーガーとしてふさわしくない」という気持ちがどこかにずっと残っているように感じていました。そういうメンタルは、スポーツ選手にとって一番良くないと思っています。
僕は朝倉選手のことが大好きですし、2018シーズンは朝倉選手の活躍がパイレーツにとってすごく大きくて、いつかはMVPを獲る選手だと本気で思っていました。ただ、彼は麻雀に対する飢え、渇望みたいなものがあるときにこそ真価を発揮する選手だと思っているので、この気持ちのままの朝倉選手よりは、新しい選手の方が結果を出してくれるだろうと考え、今回はこの決断をしました。本来であれば僕が諭して何とかしなければならないところなのですが、完全に僕の力不足です。僕は今でも朝倉選手の実力を信じて疑うことはないですし、いつかMリーガーとしての矜持とともに再びこの舞台へ帰ってきて欲しいと思っています。
─ご本人にも、そうしたお話は直接されたのでしょうか。
木下 「メンタル面に課題がある」ということまでは伝えましたが、ここまで細かい話はしていません。実際、2選手に契約満了を伝えたときも、石橋選手は覚悟されていましたが、朝倉選手もわりと覚悟されていたようで、すんなり受け入れられたんですね。それは朝倉選手自身にも、「自分はふさわしくない」という気持ちがどこかにあったからだと思っています。1年目はそういう気持ちは全く感じたことがなくて、むしろ「自分がチームを引っ張って勝たせる」みたいな気概が伝わってきていました。2018シーズンの最後にオーラスで逆転トップを取った試合がありましたが、あれはその気概があったからこそなし得たことだと思っています。
朝倉選手や石橋選手にMリーグへと戻ってきてほしい気持ちはありますが、パイレーツとして待っている、というのもおかしな話だと思っています。どうなるのかは分かりませんが、いつかパイレーツに戻ってくるのか、あるいは敵チームに加わって僕らの脅威となるのか、いずれにしてもすごく嬉しいドラマだと思っています。
─朝倉選手と石橋選手と、今後チームで関わりを持っていくことはありますか。
木下 それはあると思います。チームとして発信力を高めていくことも非常に重要だと思っていて、たとえばパイレーツではパイレーツカップというオンライン麻雀の大会を開いていてゲストを呼ぶことも多いのですが、そういう機会などで朝倉選手と石橋選手と関わっていけるならば、積極的にやっていきたいと思っています。
■新たな選手獲得の選考について
─7月11日のドラフトでは、2選手を指名することになります。新たに獲得する選手の選考に関してはいかがでしょうか。
木下 まず、朝倉選手と石橋選手、2名との契約を満了した理由について、別の理由もお話しさせてください。パイレーツは良くも悪くも、チームカラーがある程度ハッキリしているチームだと思っています。ただ、今回は選手を入れ替えるにあたって、これまでと全く違う新しいチームカラーで再スタートする必要があると思っていて、その意味では新たな選手を2人迎える方がいいと考えました。加入する選手としても、3人の中に入るよりは入りやすいとも思っています。
─パイレーツのカラーと言えば朝倉選手に代表されるように、オンライン麻雀などで実績を残した打ち手、また合理的な選択を重んじる、いわゆる「デジタル系」という呼ばれ方をされる打ち手を獲得してきた印象があります。今回の選考基準はそこから変わってくるのでしょうか。
木下 そうですね。これはABEMAさんのドキュメンタリーでもコメントしましたが、これまでは「デジタル」やオンライン麻雀の世界に関係の深い人、というカラーが強かったと思います。ただ、今回はそういうカラーを前提にして強い人を獲得するということではなく、オンライン麻雀の世界、リアル麻雀の世界含め、今の麻雀界でトップクラスの実力を持っている選手を最優先に獲ろうと思っています。
もちろん、麻雀において何をもって強いとするかは非常に判断が難しいところではありますが、やはり所属団体の実績や、最近は放送対局も増えているので、そういった対局での実績、タイトル獲得などを一つの指標として、所属団体や年齢などは限定せず、実力の高い選手を最優先に指名したいと思っています。
─それは、現タイトルホルダークラス、という解釈でよろしいでしょうか。
木下 現タイトルホルダー、及び過去のタイトルホルダーですね。「天鳳位」「魂天」といったオンライン麻雀での実績も含め、タイトルを獲得したならば、相応の実力はあると評価しています。
─今回は2名の選手を獲得できますが、若手選手、女性選手を獲る意向についてはいかがでしょうか。
木下 若手の定義は難しいのですが、女性に関しては、検討に検討を重ねた結果、現在は考えていません。男性プロを候補に考えています。
─現在はどのくらいまで候補を絞られていますか。
木下 4、5名までは絞り込んでいます。こちらが候補に挙げたプロはもちろん、今いる選手から推薦を受けたプロも含め、双方の視点から候補を選定しています。
─最後に、ファンに向けてのメッセージをお願いします。
木下 この4人で4年間やってこられたのは、サポーターであるみなさんの支えのおかげだと思っています。結果として2019シーズン優勝も果たすことができ、本当に感謝しています。しかし2シーズン連続でファイナル進出を逃し、レギュレーション上、朝倉選手と石橋選手の2名を契約満了とすることになってしまいました。この結果自体は僕も残念ですし、この4人が好きだったサポーターのみなさまには本当に申し訳ない気持ちでおります。ただ、パイレーツというチームは今後も航海を続けていきます。新しい2名、どんな選手が来ても、新しいパイレーツを応援してくださると嬉しいですし、再びみなさまに愛してもらえるパイレーツを作っていきたいと、僕含め運営一同で思っています。来シーズン以降も引き続きパイレーツの応援をよろしくお願いいたします。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。