そろそろ
報われてもいいころだ
友添敏之
魂のジャイアントキリング
【決勝卓】担当記者:ZERO/沖中祐也 2022年7月23日(土)
魂の叫び
「よし」
予選B卓のオーラス、友添が腹の底から安堵の声をあげているのをマイクが拾っていた。
放銃先の近藤の手が1000点であることを確認し、自分の通過が確定したのだ。
「よし」
──相手のいるゲームだからマナーや作法でいったら、あまり褒められたものではない行為なのかもしれない。
しかし、私は友添の感情や人間味がダイレクトに伝わってきていいなと感じた。
それに、今回のサブタイトルは「魂の一打」ではないか。
名だたるMリーガーの中で、右下のアフロが明らかに異色の存在感を醸し出している。
「負けてもともと、勝ったら大金星だから一番伸び伸び打てるよね」
解説者がそう言っていた。
違う。
断じて違う。
こういう言い方は語弊があるが、Mリーガーたちはここで負けたところで未来は明るい。
あと数ヶ月でMリーグが始まるし、おそらくだが最強戦には来年もよばれるだろう。
しかし友添は次にいつこの舞台に立てるかわかったものじゃない。
実際、友添はこの日に向けての意気込みを毎日Twitterに公開していた。
フジロックのことはよく知らないが、呼んでもらえたことへの感謝、ワクワク感、そして絶対爪痕を残してやるんだという魂の叫びが伝わってくる。
他の選手も勝ちたい気持ちは同じだろう。
しかし、心の底から不退転の気持ちで、この対局に臨んでいるのは友添だと感じる。
私は結果にかかわらず、この観戦記を友添視点で書くことに決めた。
焦点の一局・堀独自の押し返しで運命が決まる
東1局1本場、いきなりだがこの局が半荘の運命を決めたと言っても過言ではない。
テンパイで連チャンした親の多井が、さらなる好配牌を手にする。
イーシャンテンで、うまくいったら789の三色も見える。
しかし多井は柔らかくを切った。
苦しい三色にこだわらず、リーチを目指した手筋だ。
これを淀みなく育て…
平和のリーチを打つ!
前最強位、多井隆晴。
予選A卓をシビアな守備で通過してきた。
解説不要の最速最強である。
このリーチに対し、ピッとを押した男がいる。
全体牌図で見れば、その押しが異常であることが分かる。
はいわゆる「間四軒」というやつであり、ソウズの中で一番危険な牌と言える。
ドラの浮いた苦しい2シャンテンで切っていい牌ではない。
この押しの意味を理解できる人は視聴者の0.1%もいないだろう。
このを切れるのは、この男しかいない。
小さな天才・堀慎吾。
一般的な強者はセオリーを覚えて→例外を探すという順番で思考するが、堀は最初からセオリーを捨てているように見える。
膨大なパターンからの損得計算、そして深い読み…あらゆる要素を加味し、ゼロから選択を構築。丁寧な動作で打ち出される牌は、いかにも天才という感じがする。
では、堀がどうしてを切ったのか。
多井はをツモ切る時に少し時間を使った。
間違いなくその小考が読みに関わっているはずだ。
でないとじゃなくを切った説明がつかない。