勝負は、南場に入った。
南1局。ここで歌衣に、凄まじい手牌が入る。
なんと5巡目にしてこの形。
四暗刻はもちろん、ホンイツトイトイに役が3つという恐ろしい手牌になっていた。
が入っても、チャンタ付きのダマハネ。
今年の歌衣の神域リーグでの強さを象徴するかのような、凄まじい手牌。
不運にもこのが郡道の所へ。
郡道から打ち取って12000のアガリ。まさかテンパイしているとは思わなかった郡道。
「待ってこんなの無理だよ!」
悲痛な叫びが響き渡る。
流石にテンパイまでは読み切れない。
「強すぎるこれ……」
「すまんという気持ち」
流石の歌衣も、自分自身の手牌の強さに若干引いていた。
郡道に謝っているのが、歌衣の本来の気質である人の良さを伺わせる。
麻雀を友人間でやったことのある人ならわかるであろう。
自分があまりにも運が良かった時、相手にたいして「申し訳ない」と思ってしまう瞬間。
私はこのCランクの選手達がこの最終節を前にして行っていた交流戦も視聴したが、本当に雰囲気良く麻雀を打っていた。
全員が相手をリスペクトし、また相手を好ましく思っているのが伝わってくる。
だからこそ、歌衣から「すまん」という言葉が出てきたのだろう。
……偉そうなことが言えるほど、私は麻雀で実績など無い麻雀プロの下っ端だが、これだけは伝えておきたい。
胸を張って最後まで容赦なくアガリまくれ。と。
その瞬間は相手側ももしかしたら気分が落ち込んだりするかもしれない。
しかしそれは一時的なものだ。相手が自分が信頼する本当の「仲間」であるのなら、いつかこの対局を振り返って、笑って「ふざけんなよ」「強すぎだろ」って言ってくれる。
前節で書いた歌衣をメインに据えた観戦記が、多くの人から反応をもらえた。
【 神域リーグ 第9節第27試合 観戦記】傾奇者よ高らかに笑え 漢歌衣メイカの魂よ 全ての麻雀を愛する人へ届け 【文 後藤哲冶 】
ここにも載せているが、歌衣の強さは全てが運に由来するものではない。
成長し、強くなったからこそ残せた結果が数えきれないほど多くある。
麻雀においては、「運も実力の内」とは私はあまり思わないが。
「実力があるから訪れた運を正確に捉えられる」とは思う。
だからこそ、胸を張って欲しい。高らかに笑っていて欲しい。
私も、そして視聴者もそう思っているはずだから。
試合に戻ろう。
勝負は南2局へ。
ここまで放銃に回る辛い展開が続いた渋谷だったが、暗刻ドラの東対子の勝負手をこの親番でしっかりと仕上げ、歌衣から打ち取る。
好き勝手にはやらせない。
「こっから捲るぞこらあ!」
気合十分の渋谷は1本場でも500オールをアガリきり、3位の郡道に肉薄する。
南2局2本場、先制テンパイを入れたのは歌衣。
ピンフテンパイであることからも、ここはダマでも良いところだが、リーチに打って出る。
郡道から追っかけリーチが入るも、これを渋谷から一発ロン、優勝を手繰り寄せるアガリに。
続く南3局は、渋谷が歌衣のリーチをかわしきって、勝負はオーラスへ。
親が落ちてしまったFraは、これで歌衣の上に行くことがかなり厳しくなってしまった。