長村の配牌。2面子あるが、他の形が決して良くはない。
手なりで進めて2600点や3900点をアガったところで、状況は改善されないのだ。何とかして、打点を作りにいく必要がある。
対局前の勝利予想アンケートで最下位だった長村。
3年連続で最高位決定戦にいる醍醐大、鳳凰位を獲得している前田直哉、2017年雀王・最強位で記憶に新しい金太賢と比較して、20年前に時代を席巻した長村大は、今や過去の人となってしまったのか。
それでも、20年前に私を麻雀界へ導いてくれた長村大の、いや長村さんの、最後の頑張りを個人的に応援せずにはいられなかった。
を引いて一通の種ができた。5200以上はいけるかも、淡い期待が生まれた。
そこへ、一番欲しかったを引いた。私は思わず立ち上がった。
おお! 観戦記者の立場も忘れて私は、「頑張れ長村さん!」と叫んでいた。
オーラス、ゆっくりと長村の親をやらせて貰えないことを考えると、どうしてもここでこの手を実らせる必要があった。事実上の最終局と言っても過言ではない。
そしてついに、待望のを引いた。高めツモ3000・6000のリーチである。
醍醐と前田は、ここで長村にハネマンクラスをアガられたくない。全力でベタオリをする中で、できることを探す。終盤、醍醐はここからを切った。
が安全牌であったが、長村の海底を消すチーができるよう、鳴かせて貰えそうな順子の種を残したのだ。狙い通り、直後にをチーする醍醐。
デジタルに食い流れなど存在しない。食い流れたとしても、それは後悔するポイントではないのである。ただ結果として、最後のアガリ牌であったが、長村の下家である金へスルリと滑り落ちてしまった。
流局。デジタルの申し子が、醍醐大のデジタルなチーで、食い流れというデジタルの向こう側で敗れた瞬間であった。
もはや消化試合に近いオーラスは、前田がチートイツドラ4をアガり決着。
最後までダマテンを貫いた前田直哉が1位、見事な順子系の手作りで他家を圧倒した醍醐大が2位で勝ち上がりとなった。
夕焼けのオレンジが、私の部屋のカーテンに染み込む。戸棚から、20年前によく食べていたカップラーメンを出して蓋を開けた。当時のPS2も麻雀ゲームも、とっくに手元にはない。
——前田さんと醍醐さんはやっぱり強かったですね、長村さん。金さんの押し引きもお見事でした。また長村さんの対局を楽しみにしています。
いつの間にか若さの消えた長村大プロの横顔に、画面の向こうからそっと語りかけた。
元 日本プロ麻雀協会所属(2004年~2015年)。
会社に勤める傍ら、フリーの麻雀ライターとして数多くの観戦記やコラムを執筆。
Twitter:@ganbare_tetchin