あの日の長村大に憧れて 私たちが待ち望んだ、王者たちの帰還 #麻雀最強戦2022 【 #男子プロ王者の帰還 】観戦記【B卓】担当記者 #藤原哲史

長村の配牌。2面子あるが、他の形が決して良くはない。

手なりで進めて2600点や3900点をアガったところで、状況は改善されないのだ。何とかして、打点を作りにいく必要がある。

対局前の勝利予想アンケートで最下位だった長村。

3年連続で最高位決定戦にいる醍醐大、鳳凰位を獲得している前田直哉、2017年雀王・最強位で記憶に新しい金太賢と比較して、20年前に時代を席巻した長村大は、今や過去の人となってしまったのか。

それでも、20年前に私を麻雀界へ導いてくれた長村大の、いや長村さんの、最後の頑張りを個人的に応援せずにはいられなかった。

【4マン】を引いて一通の種ができた。5200以上はいけるかも、淡い期待が生まれた。

そこへ、一番欲しかった【3マン】を引いた。私は思わず立ち上がった。

おお! 観戦記者の立場も忘れて私は、「頑張れ長村さん!」と叫んでいた。
オーラス、ゆっくりと長村の親をやらせて貰えないことを考えると、どうしてもここでこの手を実らせる必要があった。事実上の最終局と言っても過言ではない。
そしてついに、待望の【3ピン】を引いた。高めツモ3000・6000のリーチである。

醍醐と前田は、ここで長村にハネマンクラスをアガられたくない。全力でベタオリをする中で、できることを探す。終盤、醍醐はここから【7マン】を切った。

【7マン】【8ピン】【4ソウ】が安全牌であったが、長村の海底を消すチーができるよう、鳴かせて貰えそうな順子の種を残したのだ。狙い通り、直後に【7ピン】をチーする醍醐。

デジタルに食い流れなど存在しない。食い流れたとしても、それは後悔するポイントではないのである。ただ結果として、最後のアガリ牌であった【3マン】が、長村の下家である金へスルリと滑り落ちてしまった。

流局。デジタルの申し子が、醍醐大のデジタルなチーで、食い流れというデジタルの向こう側で敗れた瞬間であった。

もはや消化試合に近いオーラスは、前田がチートイツドラ4をアガり決着。

最後までダマテンを貫いた前田直哉が1位、見事な順子系の手作りで他家を圧倒した醍醐大が2位で勝ち上がりとなった。

夕焼けのオレンジが、私の部屋のカーテンに染み込む。戸棚から、20年前によく食べていたカップラーメンを出して蓋を開けた。当時のPS2も麻雀ゲームも、とっくに手元にはない。

——前田さんと醍醐さんはやっぱり強かったですね、長村さん。金さんの押し引きもお見事でした。また長村さんの対局を楽しみにしています。

いつの間にか若さの消えた長村大プロの横顔に、画面の向こうからそっと語りかけた。

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