「前田さんは日本プロ麻雀連盟の中で、親番のピンフのみやピンフドラ1を一番リーチしないことで有名なんですよ」実況の日吉辰也が語った。手替わりあり、トップ目、ダマテンにする理由は確かにあるが、中押しを狙ってリーチする人も多いのではないだろうか。
直後に入った醍醐のリーチに対して、前田はすぐにオリはじめた。周囲から“岩石”と評される守備の硬さは、尋常ではない。
ここへ粘りを見せたのが、前局満貫を放銃した金である。を仕掛けて三色テンパイを果たしたあと、と無筋を立て続けにプッシュした。
2000点の手でどこまで押すのか興味を持ってみていたが、ついに醍醐の当たり牌であるをつかんだ。金と視聴者が、同時に息をのむ。
2017年に雀王と最強位を獲得した金の実力は、疑いようがない。しかし金を人として推せるポイントは、雀力だけではない。
高専という5年制の高校で麻雀を覚えた金は、卒業後に電機メーカーへ就職した。しかし好きな麻雀で生きていきたいという気持ちが抑えられず、22歳で会社を辞めた。
麻雀界での様々な経験を経て、いまは介護×麻雀というジャンルに挑戦している。介護保険を持っていて普段麻雀を打つことができない人たちに、“賭けない麻雀を打てる場“を提供しているのである。
きっと金に感謝している人は、少なくないはずだ。
少考の末、金は現物を抜いた。
直後にもう一度を引いてテンパイし返すも、醍醐がをツモって2000・4000。見事な金の押し引きであった。
東4局
醍醐が500・1000ツモ。
をカンしておらず、ドラがでの形からをポンしており、局消化だけにスポットを当てた激辛のポンである。
南1局
をポンした前田が、4巡目にをツモ切った。
を残し、トップ目醍醐からのアシストも期待した手組みである。意図を汲んだ醍醐も、1枚くらいなら鳴かれても良いとを離すが、前田はこの形からスルーした。
ここから仕掛けると、醍醐からのこれ以上のアシストが期待できなくなり、残った形も悪い。そしてソーズが伸びるや否や、今度は自身の、手出しの捨牌がぼかしているホンイツへと向かった。見事なバランスである。
この手へ、醍醐の切ったを仕掛けていないところをみて、長村がで飛び込んだ。
昨年の最強戦ファイナルは、オーラスで長村が前田をホンイツの5200で撃破したのである。
デジタルに“因果”という概念はないが、今年は奇しくも前田のホンイツの前に長村が屈した形となった。
南2局
醍醐が、この手から柔らかくを切った。
引きに限定される一通はいらない。この手組みが、ここまで全く手の入らなかった長村の勝負手リーチを、2900で打ち砕いた。
南2局1本場
今度は後がない金の勝負手リーチを、前田が500・1000でかわしきった。
上位2人の完璧な手順が、金と長村に麻雀をさせない。
南3局
前田が3巡目にテンパイしたタンピンをダマテンに構える。
腹を括って押し返してきた金や長村に高打点を放銃するような万が一があってはいけない。頭では分かっていても、リーチを打って早く楽になりたい気持ちが勝る人も多いと思う。
2020年4月、「もしも藤崎智がMリーグを作るなら」という企画で、藤崎は迷いなく前田を選んだ。
「喋りが上手なので」と藤崎は語るが、勿論照れ隠しであって、喋りだけで2位には選ばないことを視聴者は分かっている。
タンピンのダマテンを継続した前田は、醍醐から2900のアガリ。
この半荘、前田は一度もリーチをしていない。ずっとダマテンに構える方が、リーチを打つより毎巡押し引きの選択を迫られ苦しいのだ。前田からすれば当たり前のダマテンばかりかもしれないが、その徹底ぶりに観ている我々は魅せられていく。
南3局1本場
上2人の点数が抜けている状況で、金と長村は高打点をアガらないと厳しい。
このままの点棒状況でオーラスを迎えてしまえば、醍醐と前田が握手して終わらせてしまうからだ。金と長村も、それを痛いほど分かっている。