三色の愚形残りなら、カン、カン、カンくらい。
イッツーならペンか、 で高め。で高め。
ただペンならリーチの間には違和感がある。
リーヅモ赤赤ドラなどの裏ドラ期待リーチはあるかもしれないが、
そうすると茅森の打点はない。
打っている選手の方は、私たち観戦者よりよほど卓内の情報に敏感であるのだと思う。
三色は絡んでいるか確定はしないが、
おそらくこのようなメンタンピン赤の好形リーチ、という可能性は、
松ヶ瀬から見てわりと高かったのではないだろうか?
そして、茅森の手は推察しようがないが、状況的にどんな待ちでもリーチできる親が、
好形かどうかはわからない。実際はペン待ちである。
さらに、道中は高め安めの選択や裏ドラ期待などの条件があったかもしれない優も、
ハイテイならばアガりやすい。
それがもし打点の足りない牌でも、ホウテイで親に打つわけにもいかない。
実際裏ドラは乗っていたが、ハイテイなのでそれも不要だったのである。
以上のことを松ヶ瀬は総合的に考えて、
一つのギャンブルとしてハイテイを回したのである。
その見返りは、もちろん自身のトップ確定だ。
もちろん松ヶ瀬は、これが絶対に正しいと思っているわけではなかった。
ここまでの情報がない局面なら、おそらく鳴いていない。
実際トップで終了した試合後でも、難しい判断で賛否は分かれそうだと振り返っている。
しかし、ドラが出て、それがポン材だから鳴いた──、というのは
松ヶ瀬の思考の深さ、そしてどんな手段を使ってもトップをもぎ取ろうという
悪魔じみた執念を感じないだろうか。
常識的には、親のホウテイロンの機会など与えようがない。
ハイテイまでの河状況、優の逡巡のない捨て牌、そして最後に出たポン材のドラ──。
そうした全てを加味して、労せずしてトップを得られる垂涎のギャンブルに、身を投じたのである。
常識など、松ヶ瀬だってわかっている。
松ヶ瀬は、その常識を少しずつでも覆す要素を積み上げた結果、
有識者大多数の判断を蹴散らすようなハイテイ送りを実践し、その賭けに勝ったのだ。
たとえ茅森に優が打つような結果になっても、
今度は自分でまたアガり返せばよい。
当たり前に見える打ち方と、おとなしい勝負判断のみがMリーグに求められているわけではない。
優等生ばかりでは、物足りないだろう。
松ヶ瀬隆弥は、悪漢だ。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki