チームのために、ファンのために 茅森早香、悲痛なる戦いで示した不死鳥の誇り【Mリーグ2022-23観戦記3/16】担当記者:東川亮

しかし、今はもう平時ではない。
厳しい条件を突きつけられ、手材料もそろわないなかで、天才が泥臭くもがく。

ギリギリでテンパイ。

結果は流局だったが、実に茅森らしくない2局からは、この親番に懸ける必死な思いが伝わってきた。

だが、待っていた親番での爆発は、訪れなかった。次局も早々に黒沢のリーチを受け、今にも出そうなロン牌【北】を抑えながら形を残したものの、

瑠美から黒沢への放銃で決着。茅森の、最後の親番が落ちた。

墜ちる不死鳥、されど爪と誇りは奪えず

戦い方を変えざるを得ない茅森と対照的に、黒沢はどこまでも「黒沢咲」だった。

南2局、黒沢が少考。ここで注目していただきたいのが、直前に瑠美が切った【8ソウ】をスルーしている点だ。場に3枚目、鳴けば一気通貫が確定するのに、である。そして、直後に【赤5マン】引きテンパイ。3枚切れのカン【8ソウ】待ちは今の瞬間なら盲点になりそうだが

黒沢はテンパイを外した。目に見えて残り1枚の【8ソウ】に懸けるような打ち手ではないのだ。

2巡後にテンパイ復活。三色確定の【9ソウ】単騎待ちダマテンにする手もあったが、黒沢は3メンチャンで堂々とリーチを宣言した。

一発でツモった【7ソウ】は三色にならない安目、ツモる手から渋々感が伝わってきたが、

裏ドラ2枚でカバーし、結果はハネ満。黒沢の黒沢らしい一撃が、茅森を、フェニックスを絶望へと突き落とす。

南3局、茅森に大物手のテンパイが入った。ピンフドラ赤赤の3メンチャン。リーチしてツモればハネ満以上が確定、トップ目に浮上してオーラスを迎えられる。

だが、茅森はこの手をダマテンとした。

茅森の狙いは、黒沢からの直撃だった。
茅森はただトップを取るだけでなく、できる限り雷電の着順を落とすように勝たなければならない。ここでハネ満をツモったところで、黒沢の失点は6000点にとどまり、3着目瑠美の点差は12600、よほどのことがない限り、黒沢が2着で試合を終えるだろう。
一方で、直撃ならば削れる素点は8000、次局の展開次第ではトップ3着、トップラスの状況をも作れるかもしれない。ダマテンにしておけば、見逃しからの直撃も狙える。

しかし、茅森の隠し持った爪は、黒沢のアガリの前に空を切った。

次局、茅森はメンツを破壊する【2ソウ】暗槓。ほしいのは形ではなく打点。それは絶望の最中でなお希望を願う、悲痛な叫びにも見えた。

そうしてたどり着いたテンパイ、リーチ宣言牌【5マン】

リーチの瑞原が非常な宣告を下した。リーチピンフドラドラ赤裏裏のハネ満、海賊の矛が、不死鳥を深々と貫いた。

フェニックスはこの日、東城・茅森で連続ラス。セミファイナル進出はほぼ絶望的となった。しかしそれでも、選手たちは最後の瞬間まで諦めることなく、投げ出すことなく、残る2試合を闘い抜く。

Mリーガーとしての誇りを胸に。
応援してくれるファンの思いに、少しでも報いるために。

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