多井隆晴
最速最強が見る、
夢の先には何がある?
文・後藤哲冶
最速最強の男が、苦しんでいた。
レギュラーシーズン4年連続200pt越えという前人未到の大記録を達成した麻雀星人・多井隆晴が、今年初めてレギュラーシーズンのスコアをマイナスで終えた。
麻雀という競技の性質上、常勝は難しい。それでも、多井ならば毎シーズン必ずプラスで纏めてくれるような信頼感が確かにあった。
シーズン終盤焦点となったMVP争いには、伊達朱里紗、瑞原明奈、東城りお等の若い女流選手が並ぶ。
このことについて多井は自身の最終戦となった3月17日のインタビューにて
「(昔は)僕が最強って言われてたんだけど、こうやって、いなくなっていくのかなあって寂しい思いで」
と心中を吐露した。
多井はこの後の自身のYouTubeチャンネルでも
「自分で自分を許せなくなったりしたら、やめると思うんだよね」
と語り、「自身がいなくなった後」について言及した。
注意しておくが、この話は多井自身が監督のような立場になるつもりがあるかという話の延長なので、今すぐに辞めるという話ではない。
それでも辞めた後の可能性について語る多井の姿は、どこか寂しさが漂っていた。
一Mリーグファンであれば、まさに業界の顔とも言える多井がいなくなることなど、想像もできない。
しかし多井隆晴は誰よりも麻雀界の発展を願っている男だ。
その発展のために自らの『引き際』を考えているのかもしれない。
そんな多井が3月17日、自身の誕生日でもあるこの日の第2試合に連闘という形で出場した。
3月17日 第2試合 南2局1本場
トップ目を走る多井が、2着目で追いすがる堀の親番を迎えている。
点差はそこまで無く、この親番で堀に大きなアガリをされてしまうとむしろ苦しくなる立場だ。
供託が2本あり、2着目堀の親番ということもあって、アガリの価値が大きい。
の部分を外せばタンヤオが色濃く見えることもあって、ここはを外す打ち手が多いのではなかろうか。
から打っての縦重なりを見つつ、タンヤオへ。ピンズの部分が伸びればピンズ2ブロックになることだってある。
カンカンはチー。そんな構想が、真っ先に思いつく。
少考の後。多井が打ち出した牌は、だった。
直前の園田が切ったがツモ切りで、ペンも悪くない。
ここで優劣をつけられないのなら、払うことはしたくない。
安易にタンヤオに振り切らない。
タンヤオで鳴いて仕掛けることだけが、「最速」ではない。
彼が「最速最強」たる所以は――
この牌を捉えられるからである。
自信をもって残したペンを引き入れ、イーシャンテン。
こうなればソーズの形が良く、残ったカンチャンであるマンズを払える。
引きの他に引きでリャンメン以上へ変化だ。
「リーチ」
低く、自信に満ち溢れた声が卓に響く。
絶好のカンを引き入れ、リーチ。
「まだ負けるわけにはいかないんだよ」
と、そう言っているかのような繊細な手組。
3巡目に切ったが輝いている。出アガリも期待できる、絶好の待ちだ。
結果から先に記すと、リーチ時点4枚残っていたこの待ちを多井はツモることができなかった。
1人テンパイで流局。
しかしこのリーチがもたらした意味は、あまりにも大きかった。
リーチを受けた2巡後の堀は、ここで多井に通っていないを引き、スジでかなり通りやすいを打った。
その次巡。