この瞬間、瑞原の背中に寒いものが走った。
(リーチの一手じゃないか!)
次のツモを見るのが本当に怖かったという。
手変わりも少ないので、リーチしてツモり一発か裏ドラにかけるのが逆転率が一番高いからだ。
次にツモってきたのはアガリ牌ではなく、安堵しながらリーチ。
瑞原も自認しているのだが、彼女はこの手のうっかりが結構多い。
チンイツ見逃し事件、三色見落とし、安全牌見落とし… など、集中しすぎることによってか大事なことがすっぽり抜けてしまうことが多いのだ。
だが、瑞原はこのうっかりも等身大の自分の一部と受け止めている。
もちろんなるべく減らしたいと思っているし、その努力も怠らないが、やってしまったものは仕方がない。必要以上に落ち込まず、前に進む。
誰だってうっかりのミスはあるだろう。
私も年齢のせいにしたくはないが、現物の見落としなんてしょっちゅうだし、つい最近配信で隣の牌を切ってしまったばかりだ。
一番良くないのは、ミスをひきずって二次災害を起こしてしまうことだ。
評価されたいということを捨て、等身大の自分を受け入れることにより、瑞原はMリーグの舞台で堂々と戦えている。
瑞原から「周りは気にしなくていいじゃない。どうせなら楽んでいこうよ。」と悟された気分である。
瑞原は時折ポンコツになってしまう私でも麻雀は楽める、そして戦えるというメッセージを視聴者に届け続ける。
特に子育てに奔走する世界中のお母さんたちへ向け、勇気を届けたいと強く語っていた。
そのためには私が活躍するしかない。
MVPをとるしかない。
(お願い、いて…!)
祈るように
ツモ山に手を伸ばすも、一発はなし。その後も真剣な眼差してツモり続けるもは顔を出さない。
終盤、オリられない魚谷から
が放たれるが…
瑞原はそのをじっと見つめるのみでロンとは言わない。見逃しである。
アガってウラウラの確率→約9%
見逃して2回のツモでツモアガって裏1を乗せる確率(ハイテイは無条件)→約8%
適当に計算がしたが、確率としてはそんなに変わらない。
ただ、本田がテンパイして連荘、次の局にマンガンツモする逆転ルートもある。
それを踏まえるとMVP確率はたしかに見逃したほうが高いのかもしれない。
「チームを犠牲にした」
などと批判する人もいるが、瑞原としてはむしろチームのためにMVPに固執したのだろう。
瑞原はMリーガー32人に選ばれた以上、Mリーグというコンテンツをそして麻雀界を盛り上げる義務があると語っている。
12月には、子供の頃以来という
デコ出しヘアで登場。
とんでもなく恥ずかしかったらしいが、その恥ずかしいを含めてファンは喜ぶものだ。
(私だけではないはず)
見た目でも言動でもファンが喜んでくれるならといったところだろう。
MVPも同じだ。
Piratesクルーが、そしてMリーグを見ている人が注目しているなら、全力で取りにいった方がいい。
見逃した瑞原は
あと2回のツモに手を伸ばす。
日吉が絶叫し、視聴者が息を呑む。
結局、は最後まで姿を見せなかった。
今季一番盛り上がった瞬間かもしれない。
まもなくセミファイナルが始まる。
瑞原にとって、セミファイナルは苦い思い出しかない。
初年度は優勝したものの、連れて行ってもらった感が強かった。
MVPをとった昨季も、セミファイナルでは痛恨の3ラスを引いた。
だからセミファイナルで活躍したい、やり返したい、という気持ちは人一倍強いはずだ。
とはいえ、卓についたらそういった思いも消え、ひたむきに手牌に向き合うだろう。
等身大の女海賊のリベンジが始まる。
麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で戦術特集記事を連載中。note「ZEROが麻雀人生をかけて取り組む定期マガジン」、YouTubeチャンネル「ZERO麻雀ch」