勝者と敗者、それぞれの戦い 内川幸太郎が体現した桜の散り様【Mリーグ2022-23セミファイナル観戦記5/4】担当記者:東川亮

これがリーチの内川から一発で打たれ、12000は14100。好形とは言えドラのない1シャンテンをかわし手ではなく勝負手とする腹をくくった進行が、最高の結果へとつながった。

迎えたオーラス、トップ目である高宮との点差は9900点。満貫はツモなら逆転となる。打点、形ともにまとまった手をもらった松本は、5巡目に【7ピン】を引いたところで手を止めた。【5マン】を切ればソーズ、ピンズはかなりの牌でテンパイできるが、いかんせん赤である。打点の種であり、逆転条件を考えるなら何とかして使いたいところ。

それでも、 松本は【赤5マン】を切った。シンプルに広さを取ったのはもちろん、【7ソウ】待ちなら早々に【5ソウ】を切っている高宮からの直撃が狙えそう、という読みがあったという。

【7ピン】を引き入れ、タンヤオイーペーコードラでツモ・直撃条件をクリアするテンパイ。

素点を稼ぎたい高宮からリーチが入るが押し切って満貫ツモ、松本が逆転でセミファイナル最終戦を制した。

松本はファイナルへの意気込みを聞かれ、ABEMASだけでなく、各チームを応援しているファンに向けて語った。

「推しのチームがファイナルに出ていなくても『面白いな』と思ってもらえるMリーグにすることが選手の使命。16試合、全身全霊で打ちます」

渋谷ABEMASはMリーグで唯一、リーグ初年度からファイナルに出続けているチームであり、それだけに松本の言葉は重い。彼らに課された責務は、Mリーグファンを熱狂させる麻雀を打つこと。そして最後に、勝つことだ。

松本吉弘 +70.9(1着)
渋谷ABEMAS セミファイナル最終スコア 266.6(2位)

かくも高潔なり、桜の散り様

瑠美、高宮、そして松本。彼らはセミファイナルを勝ち抜いた勝者だ。そして内川は、半ば敗者としてこの舞台に臨んだ。もちろん最後の親番が終わるまで、数字上の可能性が途絶えた訳ではない。しかし、何十万点もの差を1試合で跳ね返すのは、実際にはまず不可能だ。内川はこの試合に臨むにあたり、「開幕したときだったらどうするか」を判断基準に置いていたという。

南1局5本場、内川の手が止まった。
松本のリーチを受けて、手牌は1シャンテン。真っすぐアガリを取りに行くとしたら、【5ソウ】、あるいはマンズに手をかけることになるが、いずれも全く通っていない。

この親が落ちれば、敗退が決まる。最後の最後まで奇跡を信じてあがく、それもまた一つの散り様であり、決して否定されるようなものではない。しかし、達観したかのような表情を浮かべ、内川が選んだのは、

現物の【1ピン】。少考は、普段のバランスで「内川幸太郎」の麻雀を打つための、そしてチームを代表して敗北を受け入れるための覚悟を決める間だったのかもしれない。その姿は、かつてチームを牽引した偉大なる先人を思い起こさせた。

3年前のファイナル最終戦。
サクラナイツの創設メンバーである大ベテラン・沢崎誠は、優勝の可能性が潰えた一戦で、自然にアガリに向かい、自然にオリた。その打ち筋は、最終決戦を支えた陰の立役者として高く評価されたと記憶している。

「もし、こういう状況があったら任せるからね」

それは決して、望まれるものではない。しかしそのときが来てしまったならば、誰かがその役割を担わなければならない。

同じく創設メンバーにしてドラフト1位、現在のチーム最年長、そしてチームのリーダーとして。沢崎が残した信念を内川が体現した、と書くのは大げさだろうか。桜は、散り際まで美しかった。

内川幸太郎 ▲63.9(4着)
KADOKAWAサクラナイツ セミファイナル最終スコア -376.0(6位)

セミファイナルが終わり、今シーズンのMリーグも、残すところあと16戦。全てが直接対決で、ポイント差は1戦で変わる程度しかない。ここから先、どんなドラマが待ち受けているのか。最後まで見届けよう、そして楽しもう、熱狂しよう。

 

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