この円陣の効果がどれくらいあったのかはわからないが、その日の本田と黒沢は見事連勝。
雷電は危機から脱したのである。
私はこのエピソードを聞いて、意外に思った。
もう少し昔話に付き合ってもらいたい。
「雷電の麻雀は面白いんです!」
RMOと略されるまでに定番となった決めセリフ。このセリフのルーツを知っている人は、現在どれくらいいるのだろうか。
Mリーグが始まる前、始まった直後、ずっと流れていたプロモーション動画があった。
5年も前の記憶だからあやふやではあるが
村上「僕が負けなければ優勝します」
石橋「仕掛けも多いしリーチも多い」
寿人「攻撃力でしょうね」
と7チームが自分のチームの特色を言うシーンがあり、最後を締めるのが雷電だった。
これである。
この一言を茶化すような人がいた。
「面白いってww」
「これじゃ勝てねーよ」
という具合にだ。
だが萩原は、このアンチと言えるような人たちの声すら取り込んだ。
なんとバカにされたこのセリフを、定番の挨拶にしてしまったのだ。
当初、瀬戸熊はイヤイヤやっていたに違いない。
最強戦における派手な入場シーンを見て「若手はまず麻雀を勉強するべきでは」と言っていたのをキンマの片隅で読んだことがある。
これは瀬戸熊の思想を語っていると感じた。
麻雀以外のことはポンコツでいいから、とにかく麻雀だけに特化した職人になりたい。
ずっと瀬戸熊はそう思って研鑽してきたし、これからもそうだろう。
だが、雷電の3人(途中から本田が加わり4人)で過ごしてきた5年間で、少しずつ心変わりがあったのではないか。
チームが勝てなくてもずっと応援してくれるユニバースのみんな。
そのユニバースが喜んでくれるならと、決めポーズも年々楽しそうにやるようになったし、表情も柔らかくなったように思わないだろうか。
円陣のエピソードを聞いて、瀬戸熊の中で雷電が、ユニバースが大きくなっているんだなと感じた。
だが、対局中はいつもと変わらず、鬼の形相をしている。
「卓上に魂をBETできる」
麻雀が始まると、隣で爆発があっても気づかないレベルで卓に入り込む。
一昨年の最強戦の決勝で、1人のプロが泣いた時、周りは動揺したけど瀬戸熊は全く動じなかった。その差が出た、とオーラス奇跡の倍満ツモでまくられた宮内こずえは語る。
ユニバースがずっと応援してくれるからこそ、恩返しがしたい。
松嶋「大きな雷が落ちました!」
松嶋の声に現実に戻される。
リーチ・ツモ・ドラ1からの裏4!
6000オールの稲妻が卓上を駆け巡った。
結果的にはカンチャンでもシャンポンでもツモっていた。
瀬戸熊「ここからが長かった」
全員がトップを狙ってくるファイナルでは、東1局の4~5万点は全く持って安心できない。
そもそも「赤ありの競技ルール」というのは、これまでになかったステージである。
巷の雀荘では大抵赤が入っているが、一発や裏ドラにボーナスポイントがついたり、飛びや時間制限があったりする。
11万点超えのトップだったり、ダブル箱だったり、3時間ゲームだったり、我々の経験したことのない現象がしばしば起こる。
だからこそ自分のだけの経験則でMリーグを語るのは危険だな、と思った。
少なくとも瀬戸熊はこれまでの経験でこのままでは終わらないことを感じていた。
早く三の矢を、四の矢を放ちたい。
しかし、長い。あまりにも長い。
親は問答無用で先制リーチをぶちかましてくるし、子はしっかりと高打点を作ってくる。
だが、瀬戸熊は少しも焦れていなかった。
瀬戸熊はこの1年間、ランニングを継続してきたという。
その経過をブログに公開している。
この日の朝も走ってきたらしい。