資本主義はギャンブル主義だ
こんにちは、ギャンブル・ライターの山崎一夫と申します。
漫画家の西原理恵子さんとは、長いつきあいの仕事なかまであり、ギャンブルなかまでもあります。
古くは、ぼくが銀玉親方として西原さんにパチンコの攻略法をコーチしたり、麻雀の達人を招いて、高レートで勝負するなど、様ざまなギャンブルをやってきました。
西原さんは、ほとんどのギャンブルの初心者でしたが、まるで遮眼帯(横の目隠し)をした競走馬のように、周りを見ずに突進してました。
そのうち、遮眼帯では足りずに、アイマスクと耳センまでして、真っ向勝負をしておりました。
「きゃ~」
アホか! と思う反面、西原さんのように、高レートで高配当を狙う勝負は、シビれまくりの楽しさがあるのも事実。
どうせジェット・コースターに乗るんなら、最大限の急降下と急上昇、さらにコークスクリューがあったほうが楽しいしね。
ギャンブル・ライターのぼくとしては、多種目のギャンブルに同時に手を出すことは、お奨めしておりません。
「バクチは一本、泣くんならやるな!」
をモットーにしているくらいです。
もちろん、西原さんにも奨めるつもりはなかったんですが、白夜書房の名物編集長の末井昭さんが参戦することによって、ギャンブル戦線が無軌道に拡大してしまったんです。
「西原さん、ここんとこ末井さんが、競馬で七百万円くらい勝ってるらしいよ」
「なぬ? じゃ、それに乗せてもらおうじゃないの」
とかね。
いっしょにやったギャンブルは、競馬・競輪・ボート・パチンコ・麻雀・バカラ・チンチロリン・オイチョカブ・アトサキ・大小・シーコシーコなどの他、時には外国のパチンコ店やカジノまで出かけるなど、ありとあらゆる種目です。
やってないのは、ロシアン・ルーレットくらいかもしれません。
これだけやれば、トータルで負けてしまうのは当然。
一時は勝っていた末井さんの競馬も、あっという間に勝ち分七百万円が溶け、さらに数百万円の持ち出しになったそうです。
「あたしだって、マンション一軒ぶんくらいは負けたわい!」
ところがですね、末井さんはギャンブルの大敗に懲りずに、さらにギャンブル的な投機にのめり込んで行きました。
株式・先物取引・不動産投資などです。
こちらは通常のギャンブルを遥かに超える億単位の大損です。
一方の西原さんも、オンラインのFX取引に参戦。またしても血だるまになっておりました。
普通なら、二人とも息の根が止まっていても不思議ではないんですが、どっこい、かえって元気に活躍してるくらいなんです。
末井さんいわく、
「しょせん、人生はギャンブルです。魂が抜けるような、死の疑似体験ができる遊びは他にないですよ」
西原さんも、
「男なら、人生のバックギアは最初から壊しておけ。倍々プッシュで、有り金勝負じゃ!」
と息巻いております。
確かに、資本主義社会はギャンブル主義的な側面があります。
一般的なギャンブルも、まともな経済活動とされる各種の投資も、細かいところでは保険なども、リスクとリターンの観点からは同じようなものなんでしょうね。
若いうちからギャンブルをやるべし
新連載1回目なので、あらかじめぼくのギャンブル観を少し述べさせてもらいます。
結論から言うと、なるべく若いうちから、ギャンブルにある程度なじんでおくことを奨めます。
理由の1番は楽しいから。
「リーチ!」
理由の2番は友だちができる。
「あっ 汚ねーなあ」
特に麻雀は、初めての人でも一晩いっしょに遊べば、旧知の間がらのようになれます。
理由の3番は儲かるから、と言いたいところですが、これはそう簡単ではありません。
特に競馬などの公営ギャンブルは、控除率が25%と大きいこともあり、技術でカバーするのが難しい。
その点、法的にややグレーなパチンコ・パチスロは、店がわの「客を呼び込みたい」という市場原理が働くので、勝つチャンスが生まれます。
麻雀の場合は、レートを上げて、ゲーム代の控除率を実質的に下げれば、ほぼ確実に勝てます。
「点5のフリーで、ゲーム代負けしたことがない」
ほどの腕があれば、デカピンならたちまち大富豪です。
若いころからギャンブルで揉まれていれば、社会人になってから、怪しげな投資やマルチ商法や、インチキ通販や反社会的な宗教団体などに、ハマることはなくなるでしょう。
ちょっと手前ミソかもしれませんが、精神的に自立するんだと思います。
ギャンブルは自分の金で
西原さんが初めて麻雀漫画の依頼を受けた時、西原さんは麻雀をぜんぜん知らなかったそうです。
「麻雀大好きです。まかせてください」
まだ仕事が少なかった西原さんは、そう胸を張って仕事を引ったくったと聞きました。
当然、編集者との麻雀につきあうことになり、さらに当然の結果として、毎回のように大負けをしてしまいます。
「せっかく仕事を取ったのに、原稿料以上に負けるんだから、ほんとうに悔しかった。おかげで逆接待漫画家とか、原稿料逆払い漫画家とか、さんざん言われた」
どうやら、あまり先のことは考えずに、とにかくやってみる主義のようです。
初の麻雀漫画「まあじゃんほうろうき」は、西原さんが負ければ負けるほど人気が上昇、大ブレイクしました。
原稿料は逆払いしたかもしれませんが、単行本の印税は、たぶん逆払いを免れたんじゃないでしょうか。
ここらへん、勝負強いですよね。
当時の麻雀なかまだった、広告代理店のMさんは、次のように分析してました。
「西原さんは、意図せずにマーケティングができてるように見えますね。短期の損失が、実は自然な投資になっており、長期的には大きなパフォーマンスを回収しています」
なるほど。もっとも西原さんはそんなことはぜんぜん考えてないようで(だから意図せずですね)、たとえ取材のためのギャンブルでも、自腹で徹底的に勝負するんです。
「競馬の必勝法がありますよ」末井さんに誘われて競馬に行った時のことです。
最初は少しずつ馬券を買っていたんですが、ハズレが続くと、どんどん買う金額が増えていきます。
「西原さん、ちょっと買いすぎじゃないの?」
「だって、こうしないと元が取れないんだもん。うぇ~ん」
ますます元も子も取れなくなっておりました。
こういう姿勢は、海外取材などの多額の経費がかかる取材でも同じ。姿勢というか、性格ですかね。
西原さんの場合、自分が興味のある国やイベントに、まず自腹で取材に出かけるんです。
普通は、掲載誌から依頼があって、取材費を出してもらって、その範囲内で取材して、作品を掲載してもらいます。
西原さんの場合は、とりあえず自分の金で先に買い付けをやって、それから売りつける人や出版社を見つけるんです。バッタ屋漫画家です。
もちろん、せっかく大金を出して仕入れても、売り物にならないこともある。
リスクは自分持ちだと。
ここらへん、ギャンブル資本主義ですね。
今回から、ちょっと風変わりな、麻雀&ギャンブル入門講座が始まりました。
ギャンブルの勝敗は腕だけで決まるものではありません。
戦う種目や対戦相手によって、戦い方を変えることも必要です。
あるいはメンタル面やお金の管理なども大事だと思います。
古い知人のなかには、ギャンブルや投資で破産した人もいれば、逆に上場企業まで作った人もいます。
ギャンブルのセコワザから、商売の大勝負の情報など、幅広くお届けいたします。お楽しみに。
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2010年6月1日号)
●西原理恵子公式HP「鳥頭の城」⇒ http://www.toriatama.net/
●山崎一夫のブログ・twitter・Facebook・HPは「麻雀たぬ」共通です。⇒ http://mj-tanu.com/
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