静かなる“らしさ”の競演
文・小林正和【金曜担当ライター】2025年4月11日
桜の舞う季節、街は新たな門出を迎える人々で彩られていた。少し大きめの制服、袖を通したばかりのスーツ。それぞれのスタートラインには、不安と希望が入り混じっている。
一方、Mリーグはと言うと…レギュラーシーズンという長き旅路を経て、いよいよ次なる舞台“セミ・ファイナル”へと歩みを進めていた。
リードを築く者、追いすがる者。連勝の波に乗る者もいれば、離されまいと食らいつく者もいる──。
始まりの訪れとともに、卓上にも熱をはらんだ春風が吹き込んでいた。

第2試合
東家:小林剛(U-NEXT Pirates)
南家:園田賢(赤坂ドリブンズ)
西家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:瀬戸熊直樹(TEAM RAIDEN / 雷電)
開局早々、春の陽気を焦がすような熱が盤面を走る。
東1局

これ以上、上位陣と差を広げられるわけにはいかないKONAMI麻雀格闘倶楽部の高宮。僅か5巡目に愚形ながらも、自らの“らしさ”を貫く強気の先制リーチを放つ。良く見渡すと捨て牌の景色も良い。何と山にはが4枚と「引き算打法」も背中を押していく。
これに対して、真っ先に応じたのが小林。

リーチの一発目に、何とドラのをリリースしたのであった。

小林
「まず現物がの1枚しかなく、オリきれる保証が無い事。そして、一向聴キープをするならば
よりも
の方が安全で、尚且つ使いづらい牌だったので…。」
その一打には、“ドラだから”とか“一発目だから”といった感情的な雑音は一切介在していない。ただ静かに、小林“らしい”冷静な理が詰められていた。
そして、更に割り込むように別の火花が散る。

それは、追われる側TEAM雷電の瀬戸熊の“追いかけ宣言”であった。

リーチ・ドラ1
こちらも愚形であるペン。
ただ高宮と決定的に違うのは、瀬戸熊は“追いついた”側の立場にいたという点である。
通常、追いかける側は形か打点、いずれかの武器を携えているもの。だが、このとき瀬戸熊の手には、どちらの強みもなかった。
では、なぜ瀬戸熊はセオリーから一歩踏み出す決断をしたのだろう──。
その答えのヒントは、対局後にふと見せた表情の奥に、静かに潜んでいた。

瀬戸熊
「チーム全体としても、今はしっかり戦えているなという感じはあるので。」
即ち、このリーチは第一試合で浮上の兆しを見せたKONAMI麻雀格闘倶楽部に対し、追撃を封じ込めるための“闘志の一打”──瀬戸熊の覚悟そのものであったのである。

結果的に高宮へ5.200点の手痛い放銃とはなってしまったが、一度挙げたファイティング・ポーズは下ろさない。勝負の入りを重視する瀬戸熊“らしい”一局であった。
一方で、それに負けじと高宮もまた、自身の“らしさ”を魅せると、結果的に大きな意味をもたらす事となる。ここで、そのシーンを一つ紹介しよう。
それは東4局1本場

園田が瀬戸熊から
リーチ・裏3の8,000点を出アガリした場面でのことであった。
実は、このアガリが成就する数巡前のこと…。

こちらは、東家・園田から早すぎるリーチを受けた高宮の手牌。

それまで淑やか(しとやか)に舞っていた指先が、ふと静かにその動きを止める。

上手く仕上がれば倍満クラスまで育つ可能性を秘めてはいるものの、雀頭すら定まらないリャンシャンテン。つまり、アガリのルートを辿るには、テンパイまでに引いてくる複数の無筋もを合わせて切り飛ばす覚悟が求められる手牌だ。
更に、親番の瀬戸熊でさえ、や生牌の
といった危険牌を放っている場面。人が人なら、今通った
にそっと手を掛け、これ以上の火の手に備えたい── そんな場面である。
しかし、高宮が選んだのは…
