ほんの僅かな光を信じて一歩前に出る意思表示、という一打であった。

試合後、瀬戸熊は「リーチ者・園田の現物であるや
は仕掛けて前に出るつもりだった。」と語っている。もし高宮が
を選んでいたら──。この
という悪魔のロン牌は、高宮の下家に座る瀬戸熊の元に巡って来なかったのだ。

守る為ではなく、攻める為に── それが“淑女なベルセルク”高宮まりの“らしさ”なのである。
こうして東場は、各選手の目に見えない覚悟と思惑が静かに交差しながら進んでいった。
すると南場に入るや否や、静かだったあの男が、まるでスイッチを入れたかのように動き出す。

その名は“卓上の魔術師”園田賢。
静かに、しかし確かに試合の流れを操りはじめていた。
南1局

この時の思考を、自身の検討配信で語っていたので、その一部を抜粋して紹介しよう。
園田
「まず、打牌候補の第一感は。でも縦に重なりそうだったんだよね。そこで改めて考えると、
以外は全部タンヤオ牌だなぁと。でも一番警戒している剛さんの現物なんだよなぁ。」
鈴木
「なんて無理無理!切れないって!! 残したいよ!」
園田
「でも、タンヤオ仕掛け500・1,000とかで局消化できたらメチャクチャでかいんよ。あと残しは
や
ツモも嬉しいし、ピンズの
辺りなんて2メンツや1メンツ+1雀頭のパターンもあったりと、どこも触れんよね。仮にアガリ優勝なら何切る!?」
鈴木
「そう考えるともありかも!」
最速のアガリを目指す為に、あえて一歩、後ろへと踏み出す選択へ。
そして、ここから園田が、その手で魔法をかけ始めていく。

まずは目一杯に受けを広げ、ドラのを引き込んでターツ候補が整うと、園田は牌効率上で最も不要とされる親の安牌・
には手を付けず、静かに
を切り出した。

次巡、安全度の高いを手中に収めると、園田は再び
には触れず、打
。形を整えながらも、静かにスリム化の一手を刻んでいく。
そして、この細やかな手順が、時に卓上でまばゆい光を放つ。

瀬戸熊に
・ドラ2のカン
のテンパイが入った直後──

園田にも打でテンパイ。先に
を逃した事が活きる放銃回避である。
本日の解説を務めた勝又からも「完璧でお手本のような打ち方」とお褒めの言葉が飛び交うほど。──だったはずが、その美しい構築は、ほんの一瞬で崩れ去ることになる。

凡人であれば、瀬戸熊への3,900点放銃という少し痛手を負いながらも局は静かに進んでいったはず。
だが現実は、まさかの小林が6,000オール。一気にトップの座を奪取なのである。麻雀とは、なんて恐ろしいゲームなのだろうか。
きっと園田は、この局を見返した時に、心の中でこう呟くことだろう。

(なんなん…。)
それは冗談として、もう一局“らしい”溢れる園田の魔法をご覧頂こう。
南2局2本場

タンヤオで仕掛けて一向聴。
さて皆さんは、ここから何を切りますか!?
フラットな状況であれば、後の手広いシャンテンを見越して切りが自然な選択となりそうな所…

“麻雀賢者”園田賢の選んだ牌は…

切り。
その意図は間も無く照らし出される。それは…

ダイレクトにテンパイした際の待ち枚数である。
や
単騎ならば、すでに山には残っていなかった。
しかし── この場況なら、単騎は山に2枚。