「どうせツモられたってラス目!」
自分の手牌価値が高いこともあり、ここは目をつぶって前に出る。
初年度を過ごした古巣アキレスに戻ってきた咲乃。
1年目から成長した姿を監督多井に見せるためにも、ここは2着を持ち帰りたい。
と勝負してテンパイが入った、待ち。
出ていくはドラだが、待ちが優秀なことも手伝って、ここは勝負のリーチへ。
「……おねがい……!」
咲乃の願いも虚しく、は松本のロン牌。
あえなく放銃となってしまう。
が、このプッシュは素晴らしかったと思う。状況込みで、ここは真っすぐ打った方が得だろう。
勝負は、オーラスへ。
ドラと赤が集まって勝負手になっていた朝陽だったが、親の松本からのリーチを受ける。
一発目に持ってきた牌は、ドラの。これで朝陽の手はドラが5枚になった。
そして切りたいは、親の松本には通っていない。
「押せ……!」
昨年教わっていた監督の声が聞こえたか。
ここは手牌価値を信じて、勝負。
そうして次巡持ってくるは、まさかまさかの赤。
を切ってリーチを打てば、待ちはカンではあるものの、リーチ、三色赤3ドラ2で倍満確定。
超大物手。
しかしはドラで、松本にロンと言われれば一気にラス目になりかねない。いや、ラス目にならないと思うのは楽観的だろう。
トップが遠く、ラスが近いこの状況、ダマテンにするも十分あるが。
「押せー!」
アトラス控室の声援も朝陽の背中を押す。
その想いは届くか……!
「神域リーグで、日和ってちゃダメだよね……!」
力強く、そのは横を向いた。
朝陽は昨年知っている。何度敗れても、リーチし続ける意志を。
アトラスの一番槍が力の限り放った倍満で、開幕試合は幕を閉じたのだった。
結果はこのようになった。
松本はリーチ対決に悉く敗れ、無念のラス。開幕節に監督が勝てないジンクスは継続か。
咲乃も南3局の押しは見事だったが、展開に恵まれず3着。咲乃は2試合目も連闘。第2試合こそ良い結果を持ち帰りたい所。
朝陽はオーラスの倍満分が浮いた2着。素晴らしいストップもあって、充実の内容と言えるだろう。
トップには、空星きらめ。
内容も結果も、十分すぎる結果になったのではないだろうか。
……さて、覚えている方は、いるだろうか。
実は昨年のファイナル最終戦。
今日同卓した朝陽と、咲乃と、そしてもう1人の最近魂天に上り詰めた強敵と最終戦を戦って。
チームは無事優勝という勝利を収めたが、空星はどこか、自身の無力さを感じながら閉幕の時を迎えていた。
「神域リーグの中で、一番情けない麻雀を見せてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいではあるんですけど……」
実力が上の相手が、必死にしがみついてくる極限の状態で、空星は自身の無力さを噛み締めた。
そんな2人と、お世話になった監督である松本を相手にして、空星は今宵、しっかりと成長した打牌を見せ、そしてトップを勝ち取った。
空星にとっては、過去の自分へのリベンジマッチができた、と言っても良いだろう。
昨年、MVPを取るほどの結果を残しながらも、驕ることなく、毎節しっかりと牌譜検討をしていた空星。
成長した姿を見せつけて、「見たかマツ!」とピースしている空星の姿が、はっきりと見える。
「ただいま~!」
「最強の帰還」
「どーよどーよ!」