「怖い、怖いよ!」
当たるかもしれない牌を切るのは、怖い。
けれどそれでも進まなければいけない理由がある。
「頼む! お願い!」
辿り着いた。メンタンピンのリーチ。
これが決まって、トップ目の松本から直撃さえ取れてしまえば、もう勝負はわからない。
トップだって見えてくる。
「……ッ!」
牌を持ってくる度。危険牌だと分かる度。
桜の今にも息切れそうな吐息が漏れる。
アガりたい。怖い。
同時に2つの感情を揺さぶられるこの一瞬。
間違いなく、桜は麻雀を打って。そして、楽しんでいた。
この局は残念ながら流局。
しかしテンパイまで押し切ったことで、桜の親番は続いている。
「勝つまで打つんだから……! ルイスちゃんのリベンジを果たすんだから……!」
今にも倒れそうになりながら、それでも桜は足を止めることはしない。
ゼウスのメンバーのため。愛する妹のため。
手牌は悪くない。イーシャンテンだ。
この手を決めて、いよいよトップまで――
春の終わりは突然に。
そしてあまりにも呆気なく訪れるのだった。
トップは、この日3連投で2度目のトップとなる白雪レイド。
あまりに強い。桜が最後に親被りした局もフリテンの5面張なら即リーチと決めているところに白雪の強さを感じることができた。
アキレスは白雪の大活躍で一気にチームスコアトップへ。
2着に松本。6000オールを東パツにアガっただけにトップを持ち帰りたかったが、白雪が強かった。
2着でも、ヘラクレスは今日をほぼプラスマイナスゼロでまとめている。
4着は歌衣メイカ。最後はウラを2枚乗せれば3着に上がるリーチを打ちながらも、裏は1枚まで。
見せ場は作りながらも悔しいラスとなった。
南2局での大連荘をしながらも、3着に終わった桜。
ゼウスの控室配信に戻ると。
「負けてないよ!」
「めっちゃ良かった!」
励ましの声を受けながら、桜は最後まで悔しがっていた。
今回、残念ながら桜はルイスの仇を討つ、ところまでは行かなかったものの。
その戦いぶりは、気持ちの強さは。きっと多くの神域ファンに届いたことだろう。
チームゼウスに、そして神域リーグに新たな風を吹き込んだ桜のプリンセス。
この神域の舞台で、もう一度桜吹雪を巻き起こす所を、見てみたい。
最高位戦日本プロ麻雀協会47期前期入会。麻雀プロ兼作家。
麻雀の面白さと、リアルな熱量を多くの人に伝えるため幅広く活動中。
Twitter:@Kotetsu_0924