”善く戦う者に智名勇功無し” 龍を継ぐもの仲林圭は 常に勝つべくして勝つ【Mリーグ2023-24観戦記 10/13】担当記者 #後藤哲冶

アガリ牌は確かに山にいたものの、これをツモることができず流局。
そして迎えた親番。

決して良いとは言えなかった配牌から、丁寧に字牌を選んだ後、【1ピン】を引き入れて仲林は打【7ピン】
これも3ヘッドの形で、安全牌候補の中を打つほどではない。【5マン】【7ソウ】は良形ターツを作るのに良い強浮き牌で残しつつ、ピンズで既に2ブロックあることから【7ピン】【7ピン】【8ピン】から2メンツはなりにくい。

【3ソウ】を引き入れた後、【6ソウ】を引き入れてリャンメン2つのイーシャンテンになった。
もうこれならばターツは揃った。全方位に危ない【5マン】を先に逃し、比較的安全な【中】を残す。

【6ソウ】を引くも、ここはノータイムでツモ切り。
シャンポンの受け入れである【1ピン】は悪くなさそうだが【1ピン】【6ソウ】の縦引きはリーチのみになってしまう受け入れだ。
であるならばそこの受け入れはロスしてでも、仕掛けた堀や中張牌が溢れ始めている太や松ヶ瀬に通っていない【6ソウ】を先打ち。

【5ソウ】を引き入れて、リーチ宣言。
【6ピン】【9ピン】のリーチピンフへとたどり着いた。

強者をもってして、仲林が「ミスがあまりにも少ない」と言われる所以は、一見すると目立たない、こうした細かい選択を連続でこなしているからなのだ。
なんとなく見逃してしまいがちな手組でも、仲林は1枚1枚の打牌を常に精査して打っている。

対局から反れるが、有名な『孫氏の兵法』にこんな一節がある。

『善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。
故に善く戦う者の勝つや、奇勝無く、智名も無く、勇功も無し』

意味としては、「戦い上手といわれた人は、勝ちやすい機会をとらえて勝ったものだ。だから、その勝利は人目を引く勝ち方ではなく、智謀は目立たず、その武勇が称賛されることもない」
といった内容だ。
仲林を見ていると、本当にその”善く戦う者”の体現者であると思えてくる。

基本に忠実で、ミスが極端に少ない。
奇抜な打ち方はせず、常に自らが勝ちやすい選択を繰り返している。

一打を切り取って名手として話題に上がりにくいが……長年に渡る麻雀プロとしての実績が、仲林の強さをこれ以上ないほどに証明している。

対局に戻ろう。

そんな仲林の放ったリーチだったが、これも空振り。
流局で東3局3本場に入る。

早くもイーシャンテンに辿り着いた仲林だったが、【4ソウ】【6ピン】とくっつきに良さそうな牌を躊躇なく切っていく。
ピンズの形【1ピン】【3ピン】【3ピン】【2ピン】【3ピン】の受け入れ。2人が一打目に【1ピン】を切っており、【2ピン】を持っている確率が下がっている。
であればこの形のまま勝負できると確信して、形を固定してイーシャンテンの受け入れを最大化。

松ヶ瀬から先制リーチが入る。【1マン】【9マン】のシャンポン待ち。

仲林の親を蹴るために既にテンパイを入れていた堀も【3ソウ】をスルッと押していく。
雀頭の【西】とて完全な安全牌ではない。簡単にオリには回らず、限界までアガリを拾いに行く。

親の仲林が追い付いた。
絶好の【2マン】を引き入れての【5マン】【8マン】待ちテンパイ。
リャンメンが残るなら迷う理由もない。追っかけリーチを敢行。
ここまでは、リーチが2度空振りに終わったが――

試行回数を重ねれば、アガリを生みだせる可能性は増えていく。
これを一発でツモアガって4000オール。堀を抜き去ってトップ目に立った。

東3局4本場は、堀の選択が面白かった。

10巡目に、【4ソウ】【7ソウ】のテンパイを果たした堀。

しかし堀の選択は、テンパイを取らない打【6マン】
たしかにこうしておけば、【5マン】【8マン】どちらを引いても三色が残り、ソーズは【5ソウ】【6ソウ】【8ソウ】【9ソウ】引きで高目三色のテンパイが組める。
堀は【5マン】【8マン】に感触があったという。
まさに妙手。

しかしそこに、仲林が畳みかける。【9ピン】を引き入れて【4ソウ】【7ソウ】のテンパイ。
7700からの高打点だ。

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