情熱の中に光る冷静さ【Mリーグ2023-24観戦記 12/22 松ヶ瀬隆弥 VS 萩原聖人 VS 鈴木大介 VS 日向藍子】担当記者 小林正和

その姿勢に牌も応え、大介からリーチ棒付きの6,200の上積みに成功。セミファイナルボーダー争いを抜け出す為にもトップが欲しいチーム事情。それに向けて見事なアガリとなった。

一方で、ここまで連続失点となってしまった“二刀流ブルドーザー”大介。ただ単に前のめりになっている訳ではない。プロ雀士の傍らはプロ棋士。その片鱗が垣間見えたのは東４局であった。

こちらのリーチ場面。
全体図が↓である。※黄色枠が掛かった牌はツモ切り。

何気ないカンリーチだが、大介はある仕掛けを施している。

皆さん
お分かりだろうか！？

正解は…

６、７巡目のの手出し、空切りである。

６巡目の段階でが２枚切れとは言え、割と優秀なターツ払いを装った大介。相手に自身の待ちの良さや何かしらの手役を狙っているという意図を卓上に示す公算だ。

プロ棋士は数十手、場合によっては数百手先まで展開を読むそうだが、こうする事でカン八待ち残りでリーチを打った場合に、数巡後が後筋になった時やが4枚見えになった時の布石を序盤ながら頭の中で構築しているのである。

アガリまでは行かなかったが、まさに大介らしさ溢れる一局であった。

対局の方は、日向が着実にポイントを伸ばし、松ヶ瀬と萩原が追う展開で南入する。

すると、この半荘の行方を左右するシーンがやって来た。

南１局３本場

松ヶ瀬が細かく連荘を重ねトップ争いが三つ巴の様相の中、萩原が幸先良くダブポン。

さて何を切るのか。

ここは競りの状況であり親番も残っているので、形・アガリ重視のドラ切りも選択肢候補に挙がっておかしくはないだろう。

しかし、萩原が掴んだ牌は

絶対にマンガンをアガるんだという意志の表れ打ち。

「バンッ！！」

まだ誰からもリーチが入っている訳でもなく、テンパイですない。

その指先から伝わる稲妻のような波動は自身のギアをもう一段階上げるように私には聞こえた。
試合後、萩原は一試合目３着だった本田がとても悔しそうにしている姿を見てこう思ったそうだ。

“本田の為に。そしてチーム・サポーター、最後に自分の為にトップを届けるんだと。”

冒頭で紹介した大介のフリテンリーチ。捲り合いに負けたのが本田であったのだ。

しかし、その稲妻を断ち切るように松ヶ瀬がやって来てしまう。

魔法の言葉“親リーチ”。

これに対してポンの高め2,000点の日向は

二の矢に備えての面子抜きで受けに回るが、萩原は道中のドラ引きも後押しされながら果敢に攻め返す。

「チーッ！！」

「バンッ！！！」

麻雀はリスクなしでは勝てない。
この局、萩原は胸に抱く熱い思いと共に攻め抜くと

松ヶ瀬から初志貫徹のマンガン成就。

前半は好調だったチームも気づけば三桁のマイナスポイント。高柳監督も今日の一戦は後半戦に繋げる為にも大事な一日と語ったように何がなんでもトップを持ち帰りたい気持ちの出たシーンであった。

だが、まだまだトップには満足する持ち点ではない。
ヒートアップしたエンジンがフル回転したのは南２局

・・ドラ１
ツモの場合は三暗刻付きの雷電の面白い麻雀に相応しいテンパイである。

脳内から放出する情熱アドレナリンに従って

「リーチッ！！」

いや… 違う。

萩原は縦置きとした。

そう、ヤミテンである。

確かに冷静に考えれば、このままツモっても6,000オール。出アガリも裏ドラ次第とはなるが、9,600と12,000とさほど差はない。

この判断は次巡、瞬く間に形となって結果に結び付いた。