役なしである。
だからこそリーチを打つ手が有力だ。
──不敵に笑ったように見えた。
猿川は
を切ってヤミテンに構えたのだ。
この手牌、ツモによる待ち増加(に関してはピンフ付加)に加え、ツモによる345の三色まである。
次に空切りできる牌を持ってきたら空切りリーチを打ってもいい。
を打たれたあとにツモ切りリーチなんかも面白そうだ。
果たして猿川は思い描いていたのであろうか。
誰も想定できなかった、この極上の
いたずらを。
をツモってのペンリーチ!
通常、→と連打してのリーチには99%以上通る。
読みの基本のような形で、アガリの偉いこの状況ならなおさらだ。
極上の手変わり。
極上のいたずら。
は山に2枚いた。
この手をアガりきればこの観戦記も完璧なものとなる。
私の手も汗でじっとりしてきたが、そこへ親の滝沢が立ちはだかったのだ。
猿川がいたずらを施す前の手牌。
の愚形を解消したい場面。
をツモってマンズが4連形になった。
ただも567の三色の種である。
滝沢もMリーグの速度と打点のバランスに苦しんだ一人である。
手役にこだわりすぎて速度で負け、速度に特化すると返り討ちにあう。
そのバランスが常に難しい。
──ここで9巡目にリャンシャンテンに戻し、間に合うのか。
でも、やっぱりこの手はこうだ。
滝沢が噛みしめるようにを打ってリャンシャンテンに戻すと
をキャッチしてマンズが3面張になってイーシャンテンに復帰。
をツモって猿川のリーチに追っかける。
王道VSいたずらの結末は
王道の勝利。
滝沢の手牌に収められている2枚の、さらに裏ドラ表示牌にめくれたを見て、猿川は何を思ったか。
三つ巴となった1本場は全員がテンパイを入れる中
本田がをツモって素点回復のアガリで決着。
同じ待ちだった猿川は
唇を噛み、悔しそうな表情を浮かべた。
前局に出したリーチ棒により猿川は2着。
あのリーチは仕方ないと割り切れていると思うが、その前の暗槓からの放銃を悔やんでいるのだろう。
だが猿川は壁が高ければ高いほど燃える男だ。
この困難も最高のスパイスとして乗り越える日が来るだろう。
BEASTは、ここのところの3連勝、そしてこの日の大介との2着→2着で
絶望的だった状況から、ひょっとしたら届くのでは、というところまできた。
7位8位まではテールトゥノーズだが(言いたいだけ)カットラインの6位・風林火山までも350ポイント強と、38試合あることを考えたら現実的なポイント差だと言える。