無情に解けた「蜘蛛の糸」
〜魚谷侑未を揺らしたもの
文・千嶋辰治【火曜担当ライター】2024年2月5日
ある日のことでございます。
Mリーグのシャーレを抱えた麻雀の神様は、極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。
やがて神様はその池のふちにお佇みになって、水の面を覆っている蓮の葉の間から、ふと下の様子をご覧になりました。
その蓮池の下は、ちょうどチームランキングの底にあたっておりますから、水晶の様な水を透き通してボーダー争いの様子がはっきりと見えるのでございます。
すると、ボーダーラインの下に、魚谷侑未というセガサミーフェニックスのエースが一人、レギュラーシーズン敗退の地獄から逃れるため、必死にもがいている姿が御眼に止まりました。
魚谷はチームの状況が悪い中、懸命に個人成績でプラスを叩き出し、さもすれば消え入りそうなチームの灯を必死に守っています。
神様は地獄の様子をご覧になりながら、この魚谷には目の前の難題をクリアする明晰な頭脳と、窮状を打破する胆力があるのを御思い出しになりました。
正確な手順で美しい麻雀を打つ報(むくい)には、できるなら、この魚谷を地獄から救い出してやろうと、蜘蛛の糸をそっと御下ろしなさいました。
第1試合
東家 松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
南家 浅見真紀(赤坂ドリブンズ)
西家 魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
北家 多井隆晴(渋谷ABEMAS)
フェニックスは残り30戦。
現世と地獄を別つボーダーラインまで200ポイントあまり。
どれだけ不調の時があったにしても、もうラスは引けない。
チームとしても、魚谷を登板させる際には並々ならぬ期待を寄せていることだろう。
今日の魚谷は冴え渡っていた様に感じられる。
例えば、東4局のこの場面。
トップ目で迎えた親番の多井。
2巡目に場風のを切り出した。
攻守のバランスに定評のある多井が早々に1枚切れの場風を切り出してきたわけで、早いか高いか、あるいはその両方の手が入っていることは警戒しなくてはならない。
しかし、それを承知の上で浅見がこのに声をかける。
浅見が河へ放ったのは、安全牌候補の。
多井のスピードに合わせるため、決死の覚悟が垣間見える。
一方、魚谷。
二人とはかなり離された手格好。
しかし、
わずか3巡を経るころには見違える手に。
そして中盤。
親の多井がをトイツ落とししたタイミングで、
「今ならまだイーシャンテンでは?」
と、粘り強く持っていた受けのを離し、安全牌のを持った。
この間合いの取り方、そしてマンズ受けと心中する構想が見事だった。
浅見がポンでテンパイ。
その直後に、
親の多井が満を持してリーチ。
どちらにもが当たるわけではないが、先に切っておくだけで手詰まりを防いだのはファインプレーと言える。
狙いどおりにを引き入れ、サイレントマンガンの装填完了。
は多井の現物。
万が一浅見が危険牌を持って来て、多井の河を頼りにを離せば魚谷が引き金を引く。