日向の表情に迷いは見られない。
最終日に登板することで、あの日の多井の気持ちを想像する。
「たかちゃんもこういう気持ちだったのかな」
と。
決意のマンズ寄せが実り、
2000/4000のツモアガリでトップ目に立つ。
ただ、並のトップではまだまだ足りない。迎える親番でどれだけ連チャンできるか…
東4局、その親番で日向の手が止まる。
日向はなんとここからを切った。
チャンタ系の手牌に狙いを絞ったのである。
10巡目に
をツモってイーシャンテンに。
だが、ここから待てども暮らせどもテンパイしない。
欲しいや打たれる一方で、鳴くことすらできない。
麻雀のどうしようもない苦しみ。
試合数だけがジリジリと減っていくABEMASの現状とシンクロする。
結局最後までテンパイを果たすことはできず、日向は静かに手牌を伏せた。
ABEMASヒストリー②
多井の涙を目撃した後、思っていることを何でも言い合おう、と白鳥が提案。
そこからチームが1つになるのは早かった。
二度とタカハルにあんな思いはさせない。
ABEMAS優勝という共通の目標を持ち、相手の意見を尊重した上で、自分の意見も言った。
相手を気遣い、信頼し、意見をぶつける。これが本当の仲間と言えるのかもしれない。
日向もMリーガー兼ママという二足のわらじに慣れてきたこともあり、メンタルも強くなっていた。
4年連続3位という結果にこそなってしまったものの、この3位はこれまでの3位と全然違うよね、と言い合えるくらいにはABEMASは結束し、自信を持っていたのだ。
ウチらは強い。
いずれ必ず優勝できる──と。
その自信はすぐに現実のものとなる。
翌年、他チームを圧倒する成績で優勝したのである。
ABEMASは2年目に日向が加入しただけで、一切メンバーが変わっていない。
そして5年連続でファイナルに進出している。
つまり、どのチームよりもMリーグを経験しているのだ。
4人が、口を揃えて言う。
良い時期も悪い時期もたくさん経験してきたけど、全ての経験は今のABEMASにとって必要なことだった、と。
衝突したり、涙をのんだりの日々があったからこそ、4人は強い絆で結ばれているのだ。
この4人で本当に良かった。
この4人でずっと勝ち続けたい。
南2局1本場、またしても日向の手が止まる。
日向はを切った。
3対子あるものの、安易に字牌を切らず、この手の本線はホンイツだと狙いを定める。
そして残した字牌が…
重なる。
はドラ受けターツだが、ここ払っていきまたしても一気のホンイツ寄せだ。
をポンし…
順調に手が進んでいく。
さらにをポン、を加カンすると…
新ドラのが親の太にもろのり!
日向はリンシャンからツモってきたを残し、を切ってトイトイに受ける。
太もカン待ちのテンパイで、お互いに譲れないめくり合いとなる。
太か、日向か…
アガれなければ、髪の毛一本の希望も絶たれてしまう。
ABEMASの命運を、メンバー揃って見届ける。