これまでの道中の苦しさを鑑みれば、ここでの和了は喉から手が出るほど欲しい。
そこへ引かされたション牌の。
手牌の右側へを置く所作に、味の悪さが滲み出ていた。
牧野の仕掛けは。
序盤の字牌の切られ方から察するに、一直線にホンイツへ行ったとは考えにくい。
であれば、次の候補はトイトイか役牌のバックあたり。
こちらも勝負手のイーシャンテン。
ロンと言われる前に… と、これをツモ切りとする手はあろうかと思う。
しかし、庄田は堪えた。
斬られる覚悟で手牌にを抱いた庄田。
ならば、これなら?
と、牌はなおも庄田に問いかける。
震えるほどに力が込められた右手には、
2枚目の。
場に見えていない役牌はと。
トイトイにせよバック仕掛けにせよ、これは切りにくい。
さらにはソウズも場に高い。
まさに進退極まった感がある。
苦悶の表情をあらわにする庄田。
場に安いピンズのを切って回るのか?
それで果たして勝負になるのか?
自問の時間が続く。
――
ご存知の方は多いのだと思うが、能登に実家を持つ庄田は年始の地震で被災した。
じぃちゃんばぁちゃんも2次避難所から帰ってきました!🙆♀️
リビングがボロボロで使い物にならないので車庫でお昼ご飯😂🍜 pic.twitter.com/u6LFrX63gt
— 庄田祐生(庄田ボーイ)(庄田棒太郎) (@Syouda_Boy) May 4, 2024
大切な家族、そして郷里。
震災の後でそれらと離れて暮らすことは、きっと私たちには理解し得ないほどの不安に苛まれたはずだ。
長く続く避難生活。
家族は大丈夫だろうか。
東京に戻った庄田を襲う、不安や寂しさ。
さまざまな思いが去来して、眠れぬ夜をどれだけ過ごしただろう。
それでも、庄田は我慢した。
我慢して我慢して我慢して。
庄田は東京で明るく振る舞い続けた。
「頑張れば、見ていてくれる人はいるものだよ。」
誰が言ったか、その言葉は現実のものとなった。
日々の庄田の姿を見つめていた瀬戸熊直樹が、その舞台への切符をくれた。
高校生の頃からずっと背中を追いかけてきた瀬戸熊が、憧れの舞台へ道をつけてくれたのだ。
――
庄田はずっと我慢してきた。
我慢して我慢して我慢して、今日まで我慢し続けてこの時を待った。
ここで勝負しないでどうするんだ!
そう言わんばかりに、庄田は覚悟を持ってを打った。
冷静さを欠いていたかもしれない。
我慢が足りないと、この一打を咎める方もいるかもしれない。
その声はそのとおりと私も思う。