蛮勇の【發】〜庄田祐生はそれでも打ち抜いた 麻雀最強戦2024【最強の遺伝子】観戦記【A卓】文 千嶋辰治

これまでの道中の苦しさを鑑みれば、ここでの和了は喉から手が出るほど欲しい。
そこへ引かされたション牌の【發】
手牌の右側へ【發】を置く所作に、味の悪さが滲み出ていた。

牧野の仕掛けは【1ソウ】
序盤の字牌の切られ方から察するに、一直線にホンイツへ行ったとは考えにくい。
であれば、次の候補はトイトイか役牌のバックあたり。

こちらも勝負手のイーシャンテン。
ロンと言われる前に… と、これをツモ切りとする手はあろうかと思う。
しかし、庄田は堪えた。

斬られる覚悟で手牌に【發】を抱いた庄田。
ならば、これなら?
と、牌はなおも庄田に問いかける。

震えるほどに力が込められた右手には、

2枚目の【發】
場に見えていない役牌は【發】【中】
トイトイにせよバック仕掛けにせよ、これは切りにくい。
さらにはソウズも場に高い。
まさに進退極まった感がある。

苦悶の表情をあらわにする庄田。

場に安いピンズの【5ピン】【6ピン】を切って回るのか?
それで果たして勝負になるのか?
自問の時間が続く。

――

ご存知の方は多いのだと思うが、能登に実家を持つ庄田は年始の地震で被災した。


大切な家族、そして郷里。
震災の後でそれらと離れて暮らすことは、きっと私たちには理解し得ないほどの不安に苛まれたはずだ。

長く続く避難生活。
家族は大丈夫だろうか。
東京に戻った庄田を襲う、不安や寂しさ。
さまざまな思いが去来して、眠れぬ夜をどれだけ過ごしただろう。

それでも、庄田は我慢した。
我慢して我慢して我慢して。
庄田は東京で明るく振る舞い続けた。

「頑張れば、見ていてくれる人はいるものだよ。」

誰が言ったか、その言葉は現実のものとなった。

日々の庄田の姿を見つめていた瀬戸熊直樹が、その舞台への切符をくれた。
高校生の頃からずっと背中を追いかけてきた瀬戸熊が、憧れの舞台へ道をつけてくれたのだ。

――
庄田はずっと我慢してきた。
我慢して我慢して我慢して、今日まで我慢し続けてこの時を待った。

ここで勝負しないでどうするんだ!
そう言わんばかりに、庄田は覚悟を持って【發】を打った。

冷静さを欠いていたかもしれない。
我慢が足りないと、この一打を咎める方もいるかもしれない。
その声はそのとおりと私も思う。

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