最強の遺伝子、次代への萌芽 阿久津翔太が、新鋭たちが見せた覚悟 #麻雀最強戦2024【最強の遺伝子】観戦記【決勝卓】文 #東川亮

最強の遺伝子、次代への萌芽 

阿久津翔太が、新鋭たちが見せた覚悟

【決勝卓】担当記者:東川亮 2024年6月2日(日)

麻雀最強戦2024「最強の遺伝子」決勝。

 

■渡辺史哉、爪痕を残す覚悟

対局の火ぶたを切ったのは、まだ捨て牌も出そろっていないところからの、奇襲のような【2ソウ】ポンだった。

渡辺史哉。

彼は2年前に日本プロ麻雀連盟のビッグタイトル「王位」獲得の実績をひっさげて最強戦に臨み、なすすべなく敗れている。

「かましてやるぞ、というアピールのほうが強い仕掛けだった」

麻雀最強戦決勝卓という大きな舞台、緊張もあるところにいきなりこの仕掛けをされて、やられた側としては多少なりとも動揺しかねない。そういう効果を狙ったところも、もちろんあるのだろう。

「コイツ、何をやってくるか分からない」というイメージを相手に植え付けられれば、その後の戦いを有利に運びやすくなる部分もある。

ただ一方でそれは、何とか爪痕を残そうという、渡辺なりの覚悟の表れでもあったかもしれない。

勝つにせよ負けるにせよ、最後まで「渡辺史哉」をアピールする。

そんな気概を伝える仕掛けのように感じた。

流局で迎えた東1局1本場では、チートイツのテンパイから1枚切れの【1ピン】待ちではなく2枚切れ、いわゆる「地獄待ち」の【發】待ちでリーチをかけた。【1ピン】も、それほど悪い待ちには見えない。

南1局には、リーチに対してホンイツの1シャンテンからドラ【3マン】をプッシュ。どちらも失敗すれば批判も上がりそうな選択だが、それを堂々とやりきったところに、渡辺の2年間が詰まっているように思った。

 

■山崎淑弥、高みへ至る覚悟

渡辺が押した2局を制したのは共に、先んじてテンパイしていた山崎淑弥だった。

「至高の登頂者」という二つ名で最強戦に臨んだ山崎。所属する最高位戦ではA2リーグで強者たちとしのぎを削っている。最高と最強、2つの頂との距離は今、彼にとってどのくらいに感じられているだろうか。

特に興味深かったのが南1局の【4ソウ】待ちチートイツテンパイから、【3ソウ】切りツモ切りリーチとしたこと。

河を見ると、【5ソウ】が自身から4枚見え、ソーズの下目の牌もほどよく切られていて、【4ソウ】は真ん中の牌とは言え、普段より少し良い待ちになっているように見える。また、少し前に牧野が【7ソウ】を切っていて、【1ソウ】【4ソウ】待ちなら即リーチになるだろうから少しだけ【4ソウ】が盲点になる、という考えもあったという。

【4ソウ】は山に残り1枚だったが、見事にツモって1600-3200。山崎はこのアガリでトップ目に浮上する。渡辺の押し返しもあっただけに、これをツモれたことで、勝利に、高みに近づいた感覚は合ったかもしれない。彼もまた、覚悟を持ってこの舞台に臨んだ一人だった。

 

■阿久津翔太、勝負を決める覚悟

一度は山崎の逆転を許した阿久津翔太だったが、南2局に狙い澄ましたカン【8マン】待ちをツモって1000-2000、再逆転に成功する。

阿久津は決勝卓に、Mリーグ・KADOKAWAサクラナイツのグッズ「サクラブレード」を持参して登場。サクラナイツの練習会に参加することも多く、強者との関わり合いによって雀力向上はもちろん、より高いステージで戦うことへの飢えも生まれてきているだろう。

それを成すためには、勝たなければならない。トップ目で迎えた南3局、手牌は局の中盤でタンヤオドラ1の1シャンテンまで来た。これをアガれば、ノーテンで伏せられるだけの点差を付けてオーラスを迎えられる。

しかし次巡、阿久津は山崎から打たれた【4ピン】をスルーした。鳴けば2000点のリャンメン待ちテンパイで、加点して局を進められるのに、である。

ただ、裏を返せば、この2000点をアガれば有利にこそなるものの、ツモや横移動では2番手の山崎に1000-2000ツモ条件からという、それほど厳しくない条件を残してしまう。それを分かっているからこそ、満貫クラスのアガリが狙えるこの手で、勝負を決めに出た。

親の渡辺の先制リーチが入るが、【3マン】【6マン】待ちで追っかけリーチ。無スジの【5ピン】を切る手つきに、一切の迷いはなかった。【4ピン】を鳴かなかった時点で、覚悟は既にできている。阿久津はこの麻雀で、最強戦に勝ちに来たのだ。阿久津の胸が激しく脈打つ。彼にとって、それは初めての経験だった。

渡辺のリーチはペン【3マン】待ち、一気通貫でツモれば満貫からという勝負手だった。しかし、その手に訪れたのは【6マン】

リーチタンヤオピンフドラ、8000のアガリは、山崎の満貫ツモ条件すら消した。阿久津が試合後に「あそこで2000点だったらまくられていたかもしれない」と振り返った、勝負どころを制した一局となった。

 

■牧野伸彦、研鑽を示す覚悟

南4局は事実上の1局勝負、阿久津も基本的にはアガリには来ず、放銃もしないだろう。それを踏まえて各者に突きつけられた条件は、山崎ハネ満ツモ、牧野倍満ツモ、渡辺三倍満ツモとなる。山崎すら苦しく、牧野や渡辺に至っては絶望的だ。

自団体の最高位戦でA1リーグに属し、Mリーガーなど団体のトッププロと公式戦を戦う牧野伸彦は、今回のメンバーの中でも格においては最上位の打ち手で、視聴者の支持も集めていた。

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