最強の遺伝子、次代への萌芽 阿久津翔太が、新鋭たちが見せた覚悟 #麻雀最強戦2024【最強の遺伝子】観戦記【決勝卓】文 #東川亮

しかし、その牧野が敗れようとし、大物手を狙わざるを得ない状況まで追い込まれた。最初は国士無双なども見ていた進行だったが、序盤から字牌がバラバラと切られていく。6巡目、牧野はチートイツを見て2枚切れの【中】をリリース、国士を見切った。役満も、リーチツモチートイツドラドラ裏裏やリーチツモジュンチャン三色裏などの倍満も奇跡的な引きが必要だが、それであれば少しでも実現の可能性が高い方を選ぶ。

それでも、牧野に逆転手が入るとは、到底思えなかった。

局は終盤に差し掛かったが、牧野の手は見違えるようになっていた。【1ソウ】、そして【9ピン】を暗刻にし、にわかに四暗刻の気配が漂う。そもそも、これは牧野が配牌からトイツで入っていた【2ピン】を切らずに持ち続けていたことが大きい。希望が見えないような状況でも、全ての細い道にアンテナを張り巡らせていたからこそ、そのうちの一つにたどり着く可能性を残せていたのだ。

16巡目、3つ目の暗刻ができた。もしも四暗刻単騎に仕上がれば、出アガリでもOKだ。じゃあ、【3ピン】【2ソウ】【8ソウ】、どれを残すのか。

関西でずっと腕を磨いてきた男が、最後の思考に入る。正解なんて、勝利なんて、すでになくなっているのかもしれない。

けれどもまだ勝ち筋が残っているならば──。

 

それをつかむために、これまで麻雀を勉強し続けてきたんじゃないか。

 

牧野は【8ソウ】を選んだ。山崎が上目の三色狙いに見えること、阿久津がその山崎に打たないように構えていることでソーズの上目がなく、逆に下のほうが残っていそう、という判断だったという。

牧野は、正解を選んだ。

最終手番の一つ手前、引いたのは【2ソウ】ツモり四暗刻テンパイ【2ソウ】【7ソウ】は山に1枚ずつ残っていた。

やるべきことはやった。このテンパイは、可能性は、牧野が培ってきた麻雀の技術で手繰り寄せたと言っていい。

あとは山との勝負、確率は14分の2。ハイテイツモ番、牧野が手を伸ばした先に──

奇跡は、なかった。

 

敗者は去る。それが勝負の、最強戦の掟だ。山崎、牧野、渡辺の3名は、ここで大会を去ることとなった。だが、この日見せた麻雀が色褪せることはない。次なる世代が見せた萌芽は、大いなる可能性を秘めていた。

そして勝者は先へと進む。チケットを勝ち取った阿久津には、ファイナリストとしてファイナルの舞台で素晴らしい闘牌を見せる義務がある。だが、今日の戦いを見た人たちには、彼がそれに値する技量とハートの持ち主であることは存分に伝わっただろう。若手の有望株から、麻雀界の頂点へ。

阿久津の挑戦は、ここからが本番だ。

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