「これは読めない。」
読みに関しては譲らない勝又プロをもってしてもこう言わしめるリーチ。
これに飛び込んだのは古橋だった。
全く虚をつかれたような放銃。
開かれた手を見て、打ち上げた古橋はこの表情。
リーチ三色ドラウラの8,000。
対局後、古橋はこの放銃を悔いていた。
「何も読めていなかったのが恥ずかしかった。」
と語っていたが、この放銃自体はご覧のとおりであり、これを責めるのはいささかストイックすぎないかと感じられる。
それよりも、と古橋は続けた。
「まだ東場で、あの点差で攻め切れなかった自分が弱かった。無筋ではあるものの、せめてくらい打てていたら…。」
放銃という結果よりも、そこに至るまでの自分の心境を赤裸々に語った。
それは単なる言い訳ではないように思う。
今期から自団体のトップリーグの一席を担っている古橋。
その矜持と責任から発せられた言葉のように感じられたのだが、皆さんにはどのように映っただろうか?
結果的に古橋はこの放銃が致命傷となった。
対して菅原は失点を回復することに成功したが、これが決定打とならないところに麻雀最強戦の難しさが垣間見える。
迎えたオーラス。
松本 31,800
亜樹 27,500
菅原 22,700
古橋 18,000
4番手の古橋でさえ満貫ツモで通過という大接戦。
親の亜樹は3番手の菅原に対して4,800点差。
ノーテン終了は可能であるが、菅原や古橋から条件を満たすような攻めが飛んできた時のため、ある程度アガりに向かえるような手づくりは必要な局面。
「2,900の和了は下位2者にもう1局チャンスを与えることになりかねない。アガリは5,800くらいからが妥当ではないか?」
と、勝又プロが解説してくれている。
その言葉どおりの手が亜樹に入った。
テンパイ。
ここで亜樹は長考に沈んだ。
「この手をリーチしてしまえたら楽だった。」
対局後に亜樹が語ったように、リーチを放って5,800以上の打点の手にしてしまうというのも一つの考え方。
しかし、である。
リーチ棒が置かれたら、4番手の古橋の条件は満貫ツモから満貫出アガリが可能となり、ハードルはものすごく下がる。
3番手の菅原に対しても同様で、5,200が必要だった出アガリ条件が3,900で良くなってしまう。
万が一にもリーチが空を斬った場合が地獄なのだ。
条件戦での立ち回りを数々経験している亜樹。
リーチに踏み込んだからこその逆転劇を目の前で数々見ていることだろう。
2,900の出アガリはアガるのか?
アガる場合は誰からアガるのか? アガらないのか?
さまざまな局面をシミュレートし整理していく亜樹。
1分30秒に及ぶ長考を経て、再び場は結末に向けて動き出した。
終盤の15巡目。
亜樹がツモったのはドラの。
再び亜樹は長考。
ちなみに、菅原と古橋に条件を満たすテンパイは入っていないが、この巡目にどちらにもテンパイが入っていないと楽観的に考えない方が良いだろう。
最悪のケースも想定して亜樹は考えた。
テンパイ維持か、それとも…。
どの道を進むべきか慎重に見極めるため時間をとった亜樹。