新たな女神の誕生
──卓上で奏でる
華麗な旋律──
【決勝卓】担当記者:小林正和 2024年8月25日(日)
真夏の陽射しが降り注ぎ、そよ風が草木たちを揺らす。
そして、一輪の花びらからフワリと舞い上がった白い紋白蝶がスタジオ内へと花の香りを運んでいった。
そこは静けさに包まれ、交わされる牌の音だけが響き渡る。
まるで夏の風鈴のような心地良い音色。
しかしステージ上では、彼女たちの揺れる決意と秘めた情熱が交錯し火花を散らしていた。
ふと気づけば外は暗雲に覆われ、激しい夕立の訪れを暗示しているかのよう空模様。
──女神の乱──
最後に微笑むのは一体誰に…。
夏の宵、麻雀界に新たなヒロインが誕生したのであった。
神々の狂騒曲──混沌と秩序の狭間で戦う女神たち──
情緒溢れる牌の組み合わせを持つ麻雀。その性質上、どうしても避けられないのが“巡り合わせ”である。言い換えるならば“運の要素”とも言えよう。
東1局1本場
黒沢はその側面の一つに直面していた。
2巡目にを引き入れてイーシャンテンと手牌が一歩進んだ局面。
しかし、彼女はシャンテン数戻しとなる切りを選択した。
微かに下の三色を意識した“らしい”姿である。
…と一瞬思ったがドラがである点と、孤立牌のが手残りしている事を考えると少し違和感を覚える。
何か他に理由が隠れているのだ。
それは…
ダブを晒している下家、逢川の存在であった。
お団子二つを頭にこしらえ、藤色の衣装が神々しさを醸し出している彼女。
華やかな雰囲気にマッチするかのように、序盤ながら河をと派手目な絵柄で彩っている。
それに一早く反応したのが“強気のヴィーナス”という通り名を持つ、今シリーズに相応しい一人の黒沢であった。
やを選んでいたら、鳴かれるor放銃の可能性があっただけに焦点の合わせ方は流石の一言である。
ピンフ効率の良いもツモ切り、逢川に対応しながらもツモでピンフ・ドラ1テンパイ。1枚勝負ならとを叩き切り、今度は放銃牌を使い切ってのリーチ攻撃に出た。
普段は門前高打点のイメージが先行しがちだが、こうした守備意識の高さや反撃チャンスを伺う姿勢も黒沢の特徴の一つである。
は山に3枚、は5枚となった所で、枚数では黒沢に分があった。
しかし…
“流れや風の話では黒沢に軍配が”と盛り上がっていた解説席に悲鳴をもたらすが先に顔を出す。
あくまで数字の話ではあるが、自身都合で打っていた場合はリーチ棒の1,000点を出さず2,900は3,200の失点。それが、しっかりと対応した挙句に追加損失を被ったのである。
“麻雀の不合理”
仮に自分自身と照らし合わせたとしたら、不満の表情くらい見え隠れしたのではないかなというシーン。
それでも黒沢は“黒沢咲”であった。
表情筋をキュッと引き締めて、口角を上げている。
既に目の前に起きている理不尽さを受け入れている証。
視聴者、そして背中を押して応援してくれる方々の為に
“私はまだまだ大丈夫”
と見ている人の心の中で枯れそうな花びらをもう一度咲かせてくれる、そんな私達の笑顔も綻ぶ一局であった。
それとは反対に、幸運な目を引いたのは彼女。
予選A卓では勝ち上がりを決めはしたが、本人的には想像以上に緊張してしまい、本来の自分が出せなかったと。予選後に、後ろ髪を引かれる思いを語った木崎であった。
東1局2本場
開局では、その予選で見られなかった積極的な仕掛けを披露すると、連荘中の親番の逢川から先制リーチを受けたこの局ではをしっかりと押してヤミテンを選択する。
残っている枚数では劣勢を強いられていたが、程なくして高めツモ。対局者からも明らかとなる4枚目を引き入れての満貫成就となった。
印象的だったのが、時が止まったような表情。
黒沢とは反するように、感情を包み隠しているかのように見える。
「綺麗な人や才能のある方々はたくさんいらっしゃいますが、私麻雀だけは強いんで任せてください!」