Mリーグと佐々木寿人から見る、
止まらぬ「進化」と
まなざしの「変化」
文・渡邉浩史郎【火曜臨時ライター】2024年9月17日
今年もMリーグが始まった。
これで2018年10月1日の開幕から7シーズン目を迎えることとなる。
あの日産声を上げてから今日に至るまで、Mリーグ自身も大きな進化を遂げてきたと言っていいだろう。
各チーム男女混合制の導入、セミファイナルシーズン、入れ替え制度、洗練されていくテロップ、用語解説、配牌上下整列機能……あげていけば切りが無い。
今年からは遂に、AIによる待ち牌カウントと副露表示の導入が実装された。視聴者への分かりやすさを実現したこれらはまさにMリーグの止まらぬ進化と言っていいだろう。
また、こういった進化はMリーグそのものへの影響だけではなく、Mリーグ及び麻雀界を取り巻く環境。そこからのまなざしの「変化」をも生み出した。
子供麻雀教室を含む大きな健康マージャンの枠組みが開かれ、そこにはMリーガーが引っ張りだこ。
地上波でMリーグに着目した番組が放映され、さらにはスポンサーが付き、麻雀プロがCMに起用される。
オフシーズンにはスポンサー企画の番組が開催。
さらに来年には世界大会が遂に日本で開催される事となっている。etc……
Mリーグという枠組みだけでもこれだけの「進化」と「変化」のダイナミズムを感じさせる。ではその中にいる選手はどうだろうか?
第2試合
東家:醍醐大(セガサミーフェニックス)
南家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
西家:菅原千瑛(BEAST X)
北家:松本吉弘(渋谷ABEMAS)
麻雀攻めダルマの異名を持ち、「攻める」というタイトルの本を書いた男がいる。
その名の通り、攻め麻雀の代名詞として最前線で戦い続けてきた男だ。
だが彼を知る多くの人々は言う「寿人の麻雀は変わった」、と。
それはただ無責任な第三者の言葉ではなく、本人自身も語っていることであった。
https://note.com/kinma/n/n68ac99a0fa71
結果を残すための、自分なりに突き詰めた進化とは何か。
【南3局】、トップ目の場面。
2着目の親からリーチが入る。ここを凌げばトップは目前というところ。聴牌を入れた寿人は事も無げに無筋のを切っていった。
次巡のも普段と何も変わらぬ速度でツモ切って行く。これは昔から変わらぬ寿人のバランス。
進化の片鱗が見えたのは次巡であった。
こので手が止まり、撤退。
自身の目からが三枚、が四枚見えている。
牌の組み合わせだけで見れば、これまで秒速で通してきた牌よりも遥かに切りやすい牌ではある。しかし残り一枚のを持っていそうなのは確かに菅原だ。
昔の寿人であれば、どこ吹く風で押してこの和了りを搔っ攫っていたのであろう。
今回は裏目の形となったが、これこそが寿人が言う「突き詰めた先」なのであろう。
確かに進化によって、寿人の攻めっぷりは落ちたのかもしれない。だがそれで寿人のファン達は、落胆したり見限ったりしているだろうか。
答えはもちろんNOだ。NOもNOだ。未だ変わらずに見せる切れ味に魅了されているのはもちろんのこと、そこにはファンからの「まなざし」の変化も大いに関係しているであろう。
いつからかこういった話を聞くようになった。
「寿人の本当にすごいところは守備力」
有名なところでは伝説の「2分の長考」であろうか。Mリーグ公式のYoutubeにも上がっているが、役満や劇的な逆転劇の中で堂々の再生回数ベスト10入りをしている動画である。
攻めにばかりフォーカスされがちな寿人だが、その真にすごいところは攻めない局での選択。その細かさではないかと。
実際に、攻めの手組の面で見ても決してブクブクの直線的なだけではない。先切りも使うし場況の見方も繊細である。
例えば【東2局】の親番。直線的な攻めならタンヤオターツを残す打やになっている人もいるかもしれない。しかし二人の早切りがいるのを見て、から切っていった。
結果がこの最速のマンガンツモ和了り。
「普通じゃん」と思う人もいるかもしれないが、意外と捉えられていない人もいそうな和了りである。
こういった面が深く取り扱われるようになったのも、Mリーグという大きな波によって動いた視聴者たちの「まなざしの変化」と言っていいだろう。
和了り3回・放銃0回の快勝で、KONAMIの初日は昨年と同様のデイリーダブルからのスタートとなった。