ツモの感触を味わえたのはほんの一瞬。持ってきた牌が寿人の名前の上に表示される牌と一致してしまう。
打点こそ2000だが、これはマンガンツモから跳満ツモへと条件が変わる大きな分水嶺。
【南4局1本場】を聴牌で繋ぎ、苦難の末の【南4局2本場】。
ついにこれまでの我慢が報われたか。配牌は明確に跳満が見える役牌対子にドラ対子のイーシャンテン。
しかし一度開かれた地獄の門は、麻雀星人すらも飲み込む底なしの悪意に満ちていた。
も受けられるし、ツモ→ツモの跳満ルートも受けられる、当然の切りを……
あざ笑うように引き。これは引きでのツモ裏1の形を残す切りだ。フリテンだがリーチするときはシャンポンに受ければいい。
を引いて、リーチツモ+ドラドラ+赤までは見えてきた。ここは聴牌チャンスを最大に取る+ダマテン直撃マンガン・ツモって跳満のルートが残る七対子を見て当然の打。
ドラ表示牌のを暗刻にしての聴牌!
ここで多井に最後の選択が訪れた。切ってのツモor直撃なら3着。
一方でを切ってホンイツに向かう手もある。くっつきとして見たときにかなり広い+ほぼ良形になる上、仕掛けてもOK。さらには仕上がった時に三倍満ツモのルートまである。
多井の選択は……
打で、ホンイツに向かった。多井に和了って欲しい渋川がピンズを絞らないことも計算に入れてだろう。
実際に渋川は寿人に高いピンズをスリムに構えるため、嫌っていた。
次巡、引き絞った多井のツモは……
山にわずか一枚の、。
痛い和了り逃しのようにも見えるが、実際にはツモのマンガンでは着順変動が起こらないし、先述の理由からダマテンに構えるため、瞬間は8.0ptを逃しただけに過ぎない。
この8.0ptを逃せたが故に、32.0ptを捕まえる未来を買えている。そのための三巡であったが……
寿人が役アリ変化からリーチに踏み切ったことで、状況は変わる。まず瞬間渋川からの
ピンズのアシストが来なくなった。それでも寿人の現物になった牌なら切ってくれる。
しかし向こう11巡。寿人と多井の河に並び続けたのはソウズとマンズ。
一切の希望がそこにはなかった。聴牌を取ることも叶わず、再びのハネマンツモ条件に。
それでも誰よりも諦めの悪いのが麻雀星人。ここでも跳満ツモが明確に見えるイーシャンテンまでこぎつけるも……
最後の希望さえ、あっけなく砕かれたのだ。
ノーチャンス。という言葉で片付けてしまうにはあまりにも残酷な運命の数々。
これでABEMASは▲400を超えた。惨禍の大渦、一度飲み込まれた地獄の門から脱出するすべはもうないのだろうか。
最後に一つだけ引用する。
「この世には、幸福もあり不幸もあり、ただ在るものは、一つの状態と他の状態との比較にすぎないということなのです。きわめて大きな不幸を経験したもののみ、きわめて大きな幸福を感じることができるのです。」
人間の、そして麻雀星人の叡智はすべて次の言葉に尽きることをお忘れにならずに。
「待て、しかして希望せよ」