滝沢和典、
勝利を削り出した氷の打牌
文・東川亮【火曜担当ライター】2024年11月19日
第1試合
南家:岡田紗佳(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:滝沢和典(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:竹内元太(セガサミーフェニックス)
大和証券Mリーグ2024-25レギュラーシーズン、11月19日の第1試合、南4局。
2着目の松本はトップ目滝沢まで12700点差、逆転トップにはハネ満ツモが必要だった。
赤があって打点が作りやすいルールとはいえ、決して簡単な条件ではない。
その松本が、親の元太の第1打に対し、即座にポンの声を発した。
手牌には、ドラの7mが暗刻に赤1。松本はダブなので、この時点でハネ満ツモ条件クリアの素材がそろったことになる。あまりに強烈な突風。3着目の元太とは僅差ということもあり、一見すると2着確保の仕掛けに見えなくもないが、影には一刺しで相手を貫く強烈な刃を隠し持っていた。
材料がある以上、大事なのは速度。をポンしてカン待ちの最速テンパイを組む。
それに対し、滝沢はを引いたところでメンツから中抜き、完全撤退の意思表示。松本の正体が知れない以上、つまらない手から放銃するようなことはしない。親の元太にも対応しながら、このまま試合が終わるよう、打牌を選んでいく。
終盤、チートイツ1シャンテンだった岡田が選択。は自分で切っている牌だが、松本に当たりうる候補の一つ。
それでも、岡田はを切った。松本にとって12000のアガリは、トップにこそ届かないが、大きい2着でチームにポイントを持ち帰ることにつながる。
それを承知で、松本はアガらなかった。ツモれば、あるいは次巡以降に滝沢からが切られれば直撃でトップ。そんな可能性に懸けたのだ。門前の元太はまだリーチをしていなかったことからテンパイの可能性がそれほど高くない、というのも理由にあっただろう。なお、元太から切りリーチが来た場合はロンではなくチーをして、フリテンの3メンチャンに受け変えていたという。
次巡、再び松本はでアガれるようになった。山には残り1枚。しかしそれは、松本の手の内でも、滝沢の捨て牌でもなく、岡田の河に並んだ。
「ロン」
今度はアガった。枚数が減り残り巡目もわずか、12ポイントのプラスを2度も見送ることはできなかった。
「残り20試合で、このポイントならまだ見逃したかもしれない」
試合後、松本はそんなコメントを残している。だが、ポイントがプラスか、小さなマイナスのチームならば、12ポイントを加えての2着は決して悪い結果ではない。
にも関わらず、狙えるとは言え多少の無理をしてまでトップを狙う。渋谷ABEMASはそこまで厳しい状況だと、彼らは思っているのだろう。
そして滝沢は、松本を700点上回って個人連勝を飾った。
東1局は赤3の好配牌をもらうと、ツモも利いてリャンメン待ちのリーチにたどり着き、テンパイの岡田から裏1の12000をアガって加点。
その後は比較的安全運転で試合を進め、放銃なしで最後まで逃げ切る形となった。
ただ、そんな滝沢が1局だけ、豹変した局がある。
南1局、滝沢は岡田のをポンして手を進め、待ちのテンパイを入れた。トップ目で迎えた南場は、加点よりもまずはアガリ。自分がアガって局を進めていくことが、そのまま勝利に直結する。
しかしもちろん、それをやすやすと許してくれるような相手ではない。親番の松本が待ちでリーチをかけた。
劣勢の岡田は1シャンテンでと無スジの尖張牌2枚が浮いており、長考の末、どちらも切りきれずに現物を抜いた。
しかし直後、滝沢がこともなげにを押す。
さらにもスッと切る。岡田としては目を疑うような心境だったのではないか。マジか、と。リーチをしている松本も驚いていたに違いない。
滝沢がすごいのは、こうした厳しい牌を切るときも、ほとんど打牌のトーンが変わらないことだ。危ない牌を切るときはどうしたってそれが所作に表れがちだし、Mリーガーにもそうした選手は少なからずいる。人である以上、ある程度は仕方のないところだと思う。元来の気質なのか、長年の麻雀人生で培われたものか、何か特殊な訓練で身に付けたものかは分からないが、そうした姿には麻雀打ちの一人として憧れる。
静かにをツモ。300-500に供託1000点と、打点を見ればたいしたことはない。麻雀の押し引きはリスクとリターンのバランスを見るのが大事だが、手の価値だけを見るならば、親リーチに無理をしてまで突っ張るまでもないと、受ける選択をする打ち手も多そうだ。巡目も少なく、安全牌もないわけではなかった。
しかし、この手は打点ではなく、アガりきることに大きな価値がある。そして、ここで押すのが今の滝沢の打ち方なのだという。
氷のようにクールなアガリを、実況・松嶋桃は「偉大なる300-500」と表現した。